アート

2024.01.22 11:30

鍵は「変化を恐れない」姿勢。アートは企業経営にこう活用する

小川:さらに、プロジェクトの規模がどんどん大きくなっています。例えば、EU支援による2023年のスターツプライズ(世界中で最も優れたテクノロジー・産業・社会のイノベーションを刺激するアート作品に贈られる)の受賞作品「Pollinator Pathmaker」は、アーティストが1人で作ったのではなく、園芸の専門家や科学者も参加しています。

このようにアーティストが主導してビジョンを描き、企業を始めさまざまな関係者を巻き込んでムーブメントを起こしていくプロジェクトが増えています。他にもすぐソリューションにはならないものの、一般の人々に対しても「こういうことができるかもしれない」と課題解決のヒントを与えて刺激するタイプの作品が増えています。
Pollinator Pathmaker / Alexandra Daisy Ginsberg (GB)(著者撮影)

Pollinator Pathmaker / Alexandra Daisy Ginsberg (GB)(著者撮影)

岩渕: 極めて興味深いです。アルスエレクトロニカのメディアートを通じた活動は、社会課題がより現実的なものとなる中、企業が取り組むべき活動とかなり重なって見えます。

メディアアートが効果的に働く企業とは。意外なあの業界も

ここまでの議論で、メディアアートと企業との関係性が浮き彫りになってきました。産業としてはテクノロジー、メディア、通信、クリエイティブ、デジタル化が進む自動車産業などが、短期と中長期のR&D、新規事業創出の観点でメディアアートと大きなシナジーがありそうです。

一方でR&Dのサイクルが短く、先端テクノロジーからやや距離のある消費財業界などは、メディアアートと一見遠いように感じられます。しかし今、企業が率先して社会問題に取り組んでいかなければならない中、人権やダイバーシティ、環境、倫理といった視点を鋭く切り取るメディアアートとのコラボレーションは、あらゆる生活産業の企業に大きなインパクトをもたらすでしょう。

メディアアートを通してビジネスの視野を過去と将来に拡張し、デジタルやAIを含めたソリューションとサービス、自社の将来的な位置づけを検討すること。それは技術的もしくはビジネスモデルの競争優位性を失いつつある多くの日本企業が、未来の兆しと進むべき方向性を掴むきっかけになるでしょう。

次回は平岡が小川氏へのインタビュー後編を通じて、アートシンキングとその背景にある社会課題について欧州と日本の違いなどを深掘りします。

文=岩渕匡敦

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