アート

2024.01.22 11:30

鍵は「変化を恐れない」姿勢。アートは企業経営にこう活用する

アート思考を通じて、企業が磨く「ある力」

ではメディアアートと企業には、どういう接点と可能性があるのでしょうか。ここからは、プリ・アルスエレクトロニカを統括する小川絵美子氏へのインタビューの様子をお届けします。中身の濃い議論となりましたので、前後編に分けてお送りします。
プリ・アルスエレクトロニカ受賞作品を示すパネル(著者撮影)

プリ・アルスエレクトロニカ受賞作品を示すパネル(著者撮影)

岩渕:まずメディアアートと企業の関係性について、小川さんはどう捉えられていますか。なかなか分かりづらいという人もいると思うのですが。

小川:私が見ている範囲ですと、アルスエレクトロニカ・フェスティバルへの参加が起点となり、企業がメディアアートを経営に組み込む事例が増えています。最初は感度の高いメンバーが個人でフェスティバルに参加し、その後、経営層を巻き込んで企業レベルの取り組みになることが多いです。ワークショップへの参加に加え、アルスエレクトロニカ・フューチャーラボとのコラボレーションで、企業哲学を「タンジブル(触れることのできる)コーポレート・アイデンティティ」として形にする試みもあります。参加企業がもつ技術を使い、具体的なプロトタイプを作るプロジェクトを多数実施しています。

岩渕:それはリアルな取り組みにつながりますね。参加する企業に特徴はあるのでしょうか。

小川:時代が変化する中、企業としてどう変わるべきか分からない時にお声がけいただくケースが目立ちます。現状のサービスやビジネスモデルの陳腐化が迫っており、具体的なHowを真剣に考えている企業です。電子機器メーカーやAIベンチャーなどが挙げられます。あとは社会的責任を強く背負っている公共、通信業界などの企業ですね。

そういった企業と一緒に、アート思考を通じて数十年先に向かっていくべき方向や新しい経営哲学をリフレームし、プロトタイプを作り、社員に考え方をインストールしていくのです。企業が自ら変革する力を身につけられるように、我々はサポートしています。

岩渕:経営コンサルティングとも重なる姿勢です。参加企業の経営層に求められることはありますか。

小川:経営者としてこのフェスティバルを面白がれること、つまりは自分をアップデートする準備ですね。変化を恐れない、イノベーションを求める姿勢が必要です。多くの大企業は変化のないイノベーションを探していますが、そんなものは存在しません。

岩渕:人材論の観点でも、リアルな示唆ですね。今の日本企業に本当に必要な視点です。社会状況の変化やデジタル化、AIの急速な進展も踏まえて、今と昔でメディアアートの位置づけは変わってきていますか。

小川:1990年代後半から2000年代中盤にかけてのコンピューターテクノロジーの発展期には、ヒューマンマシンインターフェースなどの新しい技術を使ったビジョンの提示が主流でした。しかし今は、情報やテクノロジーが汎用化される中、sociopoliticalといわれる社会政治的な問題に個人的な問題も絡めて、より大きな視点で本当に提起すべきテーマを扱った作品が中心となっています。
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文=岩渕匡敦

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