アート

2024.01.22

鍵は「変化を恐れない」姿勢。アートは企業経営にこう活用する

アルスエレクトロニカ 2023の会場。アーティストを始め研究者、企業人、市民など多様な人々が集う(著者撮影)

アートとビジネスは、これまで互いに影響を与え合って成長を遂げてきました。その関係を振り返ると、古くは1800年代の実業家による西洋美術品の収集まで遡ります。1970年代にはメセナ活動、1980年代には企業がブランディングや広告にアートを取り入れる動きが見られ、2010年代には社員育成、新規事業開発など経営戦略の遂行にアートを用いる企業が現れました。

近年では、アートが社員の創造性を刺激するという認識が広まり、「アート思考」がブームになっています。しかし実際に経営者やプロジェクト責任者の立場に立つと、「アート思考はどの産業にも適用できるのか」「効果はどうなのか」「どこから始めるべきか」などと悩まれる方も多いことでしょう。実はかくいう私も、かつて同じ疑問を抱いていました。

そこで百聞は一見にしかず、悩むより現場を見てみよう、ということで昨秋、オーストリアのリンツで開催された世界的メディアアートの祭典「アルスエレクトロニカ 2023」に、本連載の共著者であるボストン コンサルティング グループコンサルタントの平岡とともに足を運びました。今回はそのレポートと、同祭典のコンペティション部門を統括する小川絵美子氏へのインタビュー(前半)について綴ります。

人間に「大きな疑問」を提示する、圧倒的作品の数々

1979年、アルスエレクトロニカはリンツの文化振興を目的とした電子音楽の祭典の一環として幕を開けました。今では、世界的な芸術・先端技術・文化のフェスティバルとして知られています。他にも、アルスエレクトロニカは世界的なクリエイティブ機関として、メディアアートの世界的コンペティション「プリ・アルスエレクトロニカ」、未来の美術館として市民に新しい体験を提供する「センター」、R&D部門の「フューチャーラボ」など複数の機能をもち、世界中の企業や市民に包括的な支援を行っています。

今年のフェスティバルは9月6日から5日間にわたって開催され、来場者は8万8000人、参加アーティスト、科学者、活動家らは1500人に達しました。私たちも胸を躍らせて、現地に入りました。

まず圧倒されたのは、3つの巨大なフロアに展示されたすさまじい量と質のメディアアート。例えば中国のインターネット検閲とAIに関する作品、気候変動の危機感を自作の鍵盤楽器により表現した作品など、非常に深く、ある意味重たくもあるけれど、思わず引き込まれてしまう魅力をもつものばかりです。

それらの作品を目の当たりにして感じたことは、「社会課題に対する強いスタンス」「ためらいのない鋭い表現」「内発的な原動力」の3つでした。6月に訪れたスイスのアート・バーゼルが、美しさと人間の生きる欲求を表現する祭典だとすると、アルスエレクトロニカは人間の社会的、経済的行為への「大きな疑問の提示」だとも捉えられます。メディアアートは表現が具体的であるがゆえに、私たちに課題解決を迫るような、ハッとする緊迫感があります。
フィールドレコーディング(屋外録音)の環境データを奏でる独自の楽器 klimaton ARCTIC≈2020 / Adnan Softić and Nina Softić (feat. Thies Mynther & MOSAiC Expedition Team) (INT)(著者撮影)

フィールドレコーディング(屋外録音)の環境データを奏でる独自の楽器 klimaton ARCTIC≈2020 / Adnan Softić and Nina Softić (feat. Thies Mynther & MOSAiC Expedition Team) (INT)(著者撮影)

街中では、アルスエレクトロニカに関連したさまざまなパフォーマンスやイベントが行われており、私と平岡はフレンチゴシック様式のリンツ新大聖堂で開催された、アーティストによる舞踊とAI、デジタルデバイスの共演を鑑賞しました。それはまさに荘厳な空間と音、身体の融合に息をのむ瞬間でした。
リンツ新大聖堂でのパフォーマンス The Mirage Replicas 2.0 / Yen-Tzu Chang (TW) (著者撮影)

リンツ新大聖堂でのパフォーマンス The Mirage Replicas 2.0 / Yen-Tzu Chang (TW) (著者撮影)

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文=岩渕匡敦

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