気持ち良すぎるホットラップ
翌日の朝は昨夜からの雨で路面はウェット。タイヤも冷えているし、はじめてのマシンなので慎重に走りだした。路面に穴があくほど注視し、マシンの挙動に全神経を注いで走る。100km/hくらいまではモーターだけで走れるが、スロットルを床まで踏み込むと、V8エンジンが目を覚し、いよいよモンスターマシンと向き合うことになった。フル加速では背中をグイグイと押しつけられるが、同時に美しいフェラーリサウンドが耳に優しい。サーキットにも慣れ、先導車をカーチェイスする形でホットラップが始まった。モンスターマシンを操る私にとって、進化したABS‐evoと呼ばれるブレーキ性能は唯一の救い。カーボンコンポジット・ブレーキの利きは強烈だが、半乾きの路面でも安定している。
ハンドリングはじつにユニーク。スピードが高まるほど、ダウンフォースが増すので、コーナーリングは安定する。常識的なスポーツカーは速度が増すほど不安定になるが、エアロダイナミクスはその逆だ。220km/hのコーナでは400kg近いダウンフォースが発生し、ステアリングはずっしりと重くなる。
そのぶん、タイヤと路面のコンタクトが増しているのがわかる。他方、100km/hくらいのコーナーではダンフォースが減るのでステアリングが軽くなる。ステアリングホイールのeマネッティーノ・セレクターで「エクストラ・モーターブースト」はコーナーの立ち上がり加速が増すが、体感的に感じるほどの余裕はなかった。
ハイテク満載の最速のフェラーリであるが、洗練されたブレーキシステムとエアロダイナミクスのおかげで、安心してホットラップを楽しめた。試乗が終わると関係者とのラップアップミーティングが行われ、各自感想を述べた。私は「血の匂いがする最速のフェラーリだと思っていたが、「SF90XXStaradaleは洗練された操縦性のおかげで、ドライバーとの対話を楽しめた」と括った。もういちど、ステアリングを握りたいと今も願っている。