2019年11月発表、日本上陸は2020年4月のFerrari Roma。「LA NUOVA DOLCE VITA(新しい甘い生活)」というキャッチフレーズを掲げた、1960年公開のフェデリコ・フェリーニの映画「甘い生活」で描かれた世界観を下敷きとして作られたクルマだ。
作中で描かれるのは、優雅なファッションやライフスタイルを志向するローマの上流階級や芸能人たちが、人生を謳歌するさま。自らをスポーツカーメーカーであると公言するフェラーリが、豊かなライフスタイルを叶えるクルマとしてFerrari Romaを提案するにあたり、1950年代後半のローマの富裕層たちの生活をコンセプトにしたというわけだ。
そして、もうひとつフェラーリがFerrari Romaに冠したキーワードが「イブニングドレスを着たF1マシン」。極めて高い性能を備えながらも、あえて洗練されたルックスを追求。多くのフェラーリのクーペにデザインされている、大きな盾型の跳ね馬のエンブレムを排するなど、豪奢なディテールに頼らず、エレガントな曲線でキャラクターを表現。上品な佇まいのフェラーリを生み出した。
オープンカーモデルのFerrari Roma Spiderとは?
そんなFerrari Romaに新しく追加されたオープンカーモデルのFerrari Roma Spiderとはどのようなクルマなのか。その大きな特徴は開閉式のソフトトップのルーフだ。風を感じながら自然と一体になってドライブをする爽快感を存分に感じることができる。しかも、それをFerrari Romaの洗練されたスタイリングで叶えられる。屋根の部分がソフトトップに変わったことで、ルックスの印象はがらりと違ったものになる。ボディと同色だったルーフが、多様なオプションを要した専用のスペシャルファブリックになり、ボディの繊細な曲線がより強調されるものとなった。
聞けば、フロントエンジンにV8エンジンを搭載したソフトトップのフェラーリは、1969年の365GTS4以来、54年ぶりになるとのこと。そんな特別なフェラーリであるという点も、所有欲をかきたてる点のひとつだ。
なお、このルーフの開閉は時速60km/h以下であればいつでもボタンひとつで可能。開閉にかかる時間はわずか13.5秒なので、海沿いの道にさしかかったタイミングでルーフを開けて潮風を感じたり、山道を走行中に気温の変化を感じたときにルーフを閉めるといったことも気軽にできる。
ルーフオープン状態で気になるのは風の巻き込みだが、この点についてもフェラーリは抜かりない。リアシートのバックレストと一体化したウインド・ディフレクターがキャビンへの風の巻き込みを防ぐ。センタートンネルにあるボタンを押すと、リアシートのバックレストが前席乗員の頭部の後ろに来るように跳ね上がる(閉じるときには手動)。これにより、頭部周囲の乱流の抑制効果が約30%向上したという。
実際、試乗ではほとんどの時間をルーフをあけてドライブをした筆者だったが、耳までかかるほどの髪が顔に巻き付いて不快に感じることはなかった。前方から髪がそよぐ程度の風は入ってくるものの、キャビンのなかで乱流が巻く事態はおきていなかったということだ。
走りはしなやか。スペックはFerrari Roma同様。
動画を見ていただければわかるとおり、低速域での挙動はしなやか。道路の細かな凹凸を滑らかにいなすように走る。車重は、ソフトトップ開閉の機構をプラスしたためにFerrari Romaよりも84kg重くなったというが、これにあわせてサスペンションの調整を行ったという。しかし、他はFerrari Romaと同スペック。搭載しているエンジンは3,855ccのV8ターボエンジンで、最高出力は456kW。低回転域からの立ち上がりもフレキシブルで、1,900回転で最大トルクの80%を発揮する。ギアボックスは8速DCTで、常に最適なギアで走行することが可能だ。エンジンの音も実に上品。他車を無駄に威圧することなく、それでいて耳を心地よくくすぐるサウンドを堪能することができる。
試乗会が行われたサルディーニャ島のルートは、海を見やる海岸線や、心を癒やす小さな町、そしてエキサイティングなワインディング、そして広い高速道路とバリエーションに富んでおり、Ferrari Roma Spiderの魅力を存分に堪能できるものだった。
意のままにコーナーをトレースするコーナリングの挙動は、ひとつひとつのコーナーをクリアしていく心地よさをたっぷりと与えてくれ、前の開けた直線でアクセルを踏み込んだときの鋭い反応はスポーツカーの本性を垣間見せる。
山中のワインディングで若干のスピードオーバーでコーナーに侵入してしまったときにも、ハードなブレーキングで姿勢を乱すことなく安全にクリア。サイドスリップを瞬時に予測し、搭載する様々な制御システム全てに伝達するサイドスリップ・コントロールの賜物だ。
ハイウェイを高速で走行中に砂の浮いた箇所がありヒヤリとした場面もあったが、車速100km/hから起き上がるリアスポイラーなどが発生させるダウンフォースにより、マシンは安定して直進を続けた。
スポーツカーは早すぎて怖い、そういう声も耳にする。しかし、扱うのに苦労するほど暴れるマシンというのはもはや過去の産物。現代の最新のスポーツカーは、走行性能の進化とともに安全に走らせることのできる装備も充実している。
約4時間にわたるFerrari Roma Spiderのテストドライブは、素晴らしい景色とともに五感への刺激を感じながら、あっという間に終わった。
ホテルに戻り、停めたクルマを再び見やれば、そのエレガントなスタイリングがまた視覚を喜ばせる。モダンな最新のフェラーリでありながら、エアベントや不要な装飾を一切排除したミニマルなデザインがタイムレスな美しさを醸し出す。その姿は、街にも自然にも調和して、人生のさまざまなシーンをより豊かに彩る。すなわち、上質なライフスタイルを叶える、そんな存在だ。