山野:私は、同族経営の会社の後継者(アトツギ)を対象に、社長になるまでにやっておくべきナレッジを身につけるというコンセプトで、オンラインコミュニティや学びのプラットフォームを主宰をしています。また、最近はアトツギを対象に、事業開発を支援する自治体が増えてきたので、研修やイベントの受託運営もやっています。
数年前まではビジネス情報誌の編集長をやっていて、20年間かけて、大阪の企業を約3000社を取材しましたね。
私の実家は地元岡山でファミリービジネスをやっていて、正直ファミリービジネスの「闇」しか見ていなかったので、私は絶対にそこには関わらないと心に決めて、自分で起業することしか考えていませんでした。
しかし3000社取材するとわかることもあり、面白い会社だと思って取材に行ったら、アトツギが社長だった、業歴が長い会社だったということが多かったんです。存続にコミットする人がイノベーションを起こすんだということを再確認し、2008年頃からアトツギと呼ばれる人々の生き方に注目するようになりました。
自分の仕事を振り返ってみたときに、世の中の建て付けが、中小企業支援と創業支援にしか分かれていないと気付いたんです。
スタートアップ支援にも中小企業支援にも予算は十分つくんですが、基本的に現社長向けのものしかない。未来の社長、アトツギこそが地域経済に大きな影響を及ぼすはずなのに、彼らへの支援がポッカリ開いているなと感じました。そこからアトツギ支援の重要性を国や自治体にアプローチし始めて、今に至ります。
経営者、アトツギへ。ここがダメだよ、もったいない
──皆さん経験豊富すぎて、自己紹介だけで30分経ってしまいました(笑)次にお聞きしたいのが、インキュベーションの仕事を通じて感じる「ここがダメだよ、もったいない」こと。ズバリいかがでしょうか。小林:スタートアップでは「とりあえずやってみる勢い」と、とは言っても「ちゃんと考えて回す計画性」、この2つのバランスが必要ですが、難しいのだなと日々相談を受けていて思います。
熱意がある人ほど勢いで片足を突っ込んで収拾がつかなくなってしまったり、頭でっかちでお客さんの現場をなかなか見に行こうとしない方がいたり。「まずやる」と「少しだけやる」のバランスがとれていない人が多く、もったいないなと思います。
山野:私は同族経営のアトツギに特化した話をさせていただくと、アトツギはまだ代表じゃないので、代表権を持っていない、銀行からお金を借りられない、採用する権限も、なんの権限も持っていないただの若者なんですね。
でも「今の事業のままでは20年後はおろか、10年後もやばい」という危機感はあるから、権限がない中でも何かを始めなければならないという難しさを抱えています。彼らの危機感は時代感が違う先代や古参社員には理解してもらいにくい。結果的に、先代が立ちはだかる、古参の社員が協力してくれない、同世代の同僚がいない、心が折れて諦める。置かれている環境が彼らの挑戦を阻んでいる。もったいないなと思います。