山野(続き):一方で小さなことでも回遊魚みたいに行動を起こし続けているアトツギたちは、そのうち結果を出していく。それを見ているので、周りの目を気にして行動しないアトツギはもったいないと感じます。
──粟生さんはアトツギの方と会う機会はありますか。
粟生:なごのキャンパスとしては山野さんと3年ご一緒させてもらい、名古屋アトツギベンチャープロジェクトに携わりました。しかし名古屋市からの予算が終わった後、どうやって継続してアトツギを集めていくかという壁に当たりましたね。山野さん、アトツギはどこに行ったらいるんでしょうか?
山野:そう、いるのに、どこにいるのかって全国的な問題ですよね。最近わかってきたのが、アトツギは意欲があっても表に出て行きづらい環境にいるということです。
社長になってもいないのに会社の看板背負って動くのが難しいんです。社内でも未来の社長と明言されるわけでもない。先代や社員に聞きもせず、勝手に忖度して行動に移さない。「アトツギ忖度ワールド」と呼んでいるのですが、結局いろんな言い訳をして行動に移さない人がすごく多い。
そういう時に名古屋市がアトツギ支援をしても、「会社の看板背負って行きます!」とは自分から言いづらい。だから、金融機関から勧められたからと先代に言い訳できるとか、何かワンクッション必要なんです。なので第三者を介入させるということを私たちは大切にしています。
小林:めちゃめちゃ共感します。うちではアトツギと接する機会がたくさんあるわけではないんですけれど、先代が後押しをしてアトツギを育てようとしている、やらせようという意思がある会社はアトツギが動き出しているという実感はあります。
山野さんがおっしゃったように、普通の会社なら先代が退かないとか古参が邪魔するとか、超あるあるですが、良い会社ってアトツギに新しい事業を考えさせたりとか、うちの相談に連れてきたり、彼らに動く機会を与えている。先代の働きかけが重要だなと思っています。
場所についても、行政とか金融機関が絡んでいるところには行かせやすいんですよね。うまく公的機関を使いつつアトツギを引っ張ってくると良いというのはその通りだなと思います。
インキュベーターに求められる意外なスキル
──ほかに、インキュベーションをしていてもったいないと感じることはありますか。粟生:私は少し違った角度から悩みのタネはあります。なごのキャンパスというインキュベーション施設は、名古屋市の住宅都市局がもつ小学校跡地をトヨタ不動産が10年間の賃貸借契約という形で借りています。
ですが、スタートアップ支援は名古屋市の経済局が担当しています。住宅都市局としてはなごのキャンパスを単に新産業創出のスタートアップ支援の場だけでなく、地域との交流や街の文化を醸成する場にしてほしく、両面の意図を汲み取り、運営していかなければいけないという難しさがあります。そこには、地域の人を巻き込みながら、スタートアップの認知度や理解度を高めていくことがインキュベーション施設のプロデューサーやマネージャーに強く求められていると思います。
時代とともに関わるステークホルダーが多くなればなるほど、必要とされる役割が変わるので、全ての要望を満たすためにはどうすればいいか、ずっと悩ましいです。元小学校だった場所をスタートアップの人たちの学び場として、アトツギや起業家だけでなく、会社員の人たちのリスキリングの場として──さらに将来を担う小中高生たちがアントレプレナーシップを学ぶ場としてもプロデュースしています。結局、楽しんでやってますけどね。
あまり表に出ない裏方とも言える、インキュベーションの世界。いかがでしたか?次回は、全てのリーダーが悩むであろう人材育成について。具体的なお悩み相談に、インキュベーション三賢人が答えていきます。次回は12月20日に公開予定です。どうぞお楽しみに!(督)