静岡県掛川市の佐野夢果さん(17)=掛川東高校2年=だ。幼少期からの難病で歩くことができない。「夢ちゃん」と呼ばれる彼女はこの1年、全国の高校生の中でも、かなり目立った存在だった。
障害者週間に合わせて内閣府が公募した「心の輪を広げる体験作文」では、高校の部の最優秀賞に選ばれ、12月6日に岸田首相から表彰を受ける。一ツ橋文芸教育振興会(東京)の高校生読書体験記コンクールでも、昨年に続いて静岡県代表に選ばれた。
夏休みには、電動車いすユーザーの立場から、障害体験と街歩き・環境美化のイベント「車いすスポGOMIイン掛川」を成功させ、マスメディアにしばしば登場した。セミナー、シンポなどの登壇も増えた。
このマルチな活躍を、「すごい」で片づけてはいけないと思う。物事を深く考えたり、思いを人に伝えたりする力が育ちにくい現代に、重度障害者の"夢ちゃん"がつかんだものを、見つめていきたい。
「車いすなのに偉いわね」という言葉
首相表彰を受ける作文は「気づきから生まれる誰もが暮らしやすい社会」というタイトルだ。小学校時代、1学年1クラスの小規模校で過ごし、級友や先生たちは「障害者」として夢ちゃんを見るのではなく「どうしたら一緒に参加できるか」を考えてくれた。
自然観察で川へ出かけたときは、濡れてもいいように防災用の車いすを先生が借りてきてくれた。畑で野菜の収穫をしたときは、級友たちが段ボールを敷いて、畑を通れるようにした。
でも学校の外では、周りの人たちの対応は少し違った。
登校しているときに「車いすなのに偉いわね」。
作文で賞を取ったときに「車いすなのにすごいわね」。
まったく悪気はないのだが「障害者として括られていることが悲しかった。親友が「夢ちゃんは夢ちゃんだよ」と励ましてくれて、心の支えになった。
そうした体験から、障害者がその人らしく生きられる社会のキーワードは「一緒に過ごす時間」だと思ったという。
一番怖いのは知らないこと。かかわったことがない、分からないことには、人はつい難しく考えてしまう。一緒に過ごす時間から生まれるたくさんの気づきが、社会をよい方向に動かしていくはず。
だから、今の自分は車いすユーザーの横山博則さんが店長を務める掛川市の「駄菓子屋 横さんち」でボランティアスタッフを務め、地域の幅広い人たちと交流している。
表現力の磨き方
読み応えのある文章だが、本当はもっと盛り込みたいことがあった。国連障害者権利条約に2014年に批准した日本は、昨年夏に国連から取り組みの遅れについて勧告を受けた。その中でも佐野さんが強い関心を持ったのは「すべての障害児が普通学校への通学できるように保障する」という「インクルーシブ教育」を促進させること。大学でじっくり勉強したいと思っているテーマだ。
でも、今それを前面に打ち出すのはたぶん逆効果。
「私の思いが少しでも国のリーダーたちに届けばいいなと思って、柔らかい部分を書きました。いつも考えていることだから、30分ぐらいで書き上げました」
こんなふうに、書く目的や読み手に合わせて、文章のスタイルを変えていくのは、小学校のころにつかんだ技だという。