その大きな原動力のひとつとなったのがESG投資です。投資家が「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」の側面を考慮した投資を重視するようになり、企業やプロジェクトがSDGsに寄与するかどうかが重要な評価基準となりました。
ESG志向の投資家が増加すると、SDGsに関連するプロジェクトや企業への資金が流れやすくなることで、プロジェクトの加速が期待されます。さらにESGに配慮した経営を行う企業に投資することで、売上高や利益、保有財産などの財務情報だけではなく、ESGへの取組状況という非財務情報の要素も考慮した投資が重視されるため、企業のSDGsへの取り組みを加速させました。
人的資本経営の流れはあるものの
一方、日本で「ウェルビーイング」をよく聞くようになったきっかけの一つが今年2023年3月期決算から、上場企業などを対象に人的資本の情報開示が義務化されたことでしょう。対象企業は、金融商品取引法第24条における「有価証券報告書」を発行する約4000社の大手企業で、有価証券報告書の中に、サステナビリティ(持続可能性)情報の記載欄が新設され、人材育成や環境整備の方針・指標・目標などの明記が必須になり、企業の多様性に関連する「女性管理職比率」や「男性育児休業取得率」「男女の賃金格差」などの項目についても開示を求められるようになりました。
そうして活況になったのが「ウェルビーイング経営」の領域です。具体的には、コンサルティング会社が経営戦略としてのウェルビーイングという概念やパーパスの導入の重要性を説いたり、人材管理系では社員が生き生きと働いて能力を発揮することを支援すると謳い、さまざまな人事管理ソリューションの提供企業が急成長を遂げるなど、多様なサービスが展開されています。
しかし、これらのビジネスは、企業の従業員のウェルビーイング向上を願った取り組みであるものの、その内実は、企業としての対外的な競争力を生み出すための事業戦略(優秀人材の確保)の一環でもあります。
つまり、ここでウェルビーイングに投資しているのは“個人”ではなく企業という“事業者側”であり、あくまで個人はその効果を副次的に享受しているにすぎません。要は自分の財布のひもを能動的に開いていない、主体的に自分のウェルビーイングに投資しているわけではない、ということです。