日本人が美徳とする謙遜は海外では通用しないし、やっぱり言葉の壁は大きいのだな、とか。海外の人が日本の良さを見つけてどんどん持ち帰っているのに、日本人はそういう良さにまったく気づいていない。それが大きな機会ロスになっていて、本当にもったいないと思いました。
藤吉:TBWAやリーバイスで外国のブランドを日本に紹介するときに、その良さをわかってもらうためのコミュニケーションは難しかったですか。
中道:日本人はどこかで西洋が上で日本は下と思っていて、海外ののものの方が価値がある、みたいな感覚がいまだにありますよね。
藤吉:たぶん、日本人には明治維新の頃の「西洋に追いつけ追い越せ」という精神が強く残っているのでしょうね。
中道:それがあったから戦争で全部なくした後もこれだけのスピードでここまで来られたのだと思いますが、自分たちの良さを知らないのは非常にもったいない。1億2000万人もの人がいる経済圏で、世界3位ぐらいのところにいるような平均点の高い国は、世界を見渡しても絶対にありえないわけです。
この平均点の高さは日本のアセットだと気づいて世界を見渡したら、相手に引け目を感じることもないし、もっと出し方とか見せ方とかいろんなやり方があるはずです。海外の人たちは日本にアイデアを探しに来るわけですよ。リーバイスの時もそうでした。
藤吉:どういうアイデアを持っていくんですか。
中道:日本人はトレンドをうまく取り入れながらオリジナリティを発揮します。例えばデニムの色落ちも、本来は履きこむうちに色が落ちていくのですが、日本人は人工的に色落ちさせます。その時にビンテージショップで色落ちしたものを探し出して参考にするわけです。
日本人がすごいのは、服でも車でも、昔のものを大切に使っていたり丁寧に保存しておいたりするところです。それに日本人は情報を得ると蘊蓄(うんちく)まで携えて、そういうことも全部ブレンドして形にしていきます。これは日本人の非常に優れた特徴だと思います。
アメリカ人のデザイナーが言っていましたが、日本では世界中のいろいろなものがきれいに整理されて置かれているので、情報収集しやすくてインスピレーションを感じると。僕がいた当時、リーバイスもナイキも日本でクリエイティブ研修をよくやっていました。最近減っているのが気になりますけどね。
藤吉:なるほど。そこから、そういうことをプロデュースしていこうと考えられたのですね。
中道:そうです。クライアントのブランドビジネスをサポートする時に、海外の視点を持っているというだけでなく、自分たちでブランドを立ち上げて、どういう苦労をして売上をあげているのか、ブランドビジネスをきちんと理解していなければ本当のサポートはできないと考えたのです。
藤吉:松尾芭蕉の言葉「不易流行」がビジネス界でよく使われるのは、「不易」と「流行」という、相反するものをミックスさせるという考え方そのものがイノベーションになるからだと思うんです。変わらないものはただ廃れていくだけですから、ブランドも常に工夫や革新を続けながら伝統を守るという、相反することをやっていますよね。