宇宙

2023.11.28

ケタ外れな超高エネルギー宇宙線の「アマテラス粒子」、新物理理論の可能性を示す

超高エネルギー宇宙線「アマテラス粒子」が、ユタ州のテレスコープアレイ(TA)実験観測所の地表検出器群で観測された様子を描いた想像図(Osaka Metropolitan University/L-INSIGHT, Kyoto University/Ryuunosuke Takeshige)

宇宙空間から地球に降ってきた、極めて高いエネルギーを持つ1個の粒子の観測に成功したとする研究結果が発表された。この粒子は、それが何なのかや、どこからやって来たのかも、これまでの研究では明らかになっていない。今回と同等のエネルギーを持つ「超高エネルギー宇宙線」は、今までに1991年に1回しか観測されていない。

この稀な粒子は、現在の科学ではまだ未知の素粒子物理学に従っているのかもしれないと、今回の観測を行った研究チームは述べている。観測結果をまとめた論文は科学誌Scienceに掲載された。

この粒子は、神道信仰における太陽の女神で、日本の国造りを助けたとされる天照大御神にちなみ「アマテラス」と命名された。1991年に検出された「オーマイゴッド粒子」に次いで、観測史上2番目に高いエネルギーを持つ宇宙線だ。

激烈な天体現象の名残

米航空宇宙局(NASA)によると、宇宙線は太陽系外の銀河系内や、銀河系外の宇宙を起源とする荷電粒子で、ほぼ光速に近い速度で移動する。激烈な天体現象の名残で、絶え間なく地球に到来している。だが、今回の宇宙線はエネルギーが桁外れに高く、極めて珍しい。

研究を率いた大阪公立大学の大学院と南部陽一郎物理学研究所に所属の藤井俊博准教授は「この超高エネルギー宇宙線を初めて発見したとき、過去30年で例のないエネルギーレベルを示していたため、誤りだったに違いないと思った」と述べている

超高エネルギー

2021年5月27日、研究チームは極めて高いエネルギーを持つ1個の粒子を検出した。この粒子のエネルギーは、腰の高さからつま先の上に落としたレンガのエネルギーに匹敵すると、科学者らは表現している。米ユタ州デルタ近郊の面積700平方kmの敷地に、地表検出器507台を正方格子状に配置したテレスコープアレイ(TA)実験観測所で発見された。TAは宇宙線に特化した実験観測所で、2008年から稼働している。

今回の宇宙線は、銀河系に隣接する宇宙の空洞領域(ボイド)の方向からやって来ているように思われるが、明確な発生源は存在しない。論文の共同執筆者で、ユタ大学のTA共同広報担当のジョン・マシューズは「これらが空のどこから来ているかを指し示すことができるはずだ」と指摘する。「だが、オーマイゴッド粒子や今回の新粒子の場合、発生源の方向に軌跡をたどっても、それらを生成するほど高いエネルギーを持つものは何もない。これは謎だ。いったい何が起きているのだろうか」

ユタ州のテレスコープアレイ(TA)実験観測所にヘリコプターで配置される地表検出器(Institute for Cosmic Ray Research, University of Tokyo)

ユタ州のテレスコープアレイ(TA)実験観測所にヘリコプターで配置される地表検出器(Institute for Cosmic Ray Research, University of Tokyo)

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翻訳=河原稔

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