人員配置について、品質管理について、サステイブルな取り組みについてなど、様々なノウハウやツールを開放し彼らと共有することで、クオリティの高いブドウの供給を可能にしているという。協力農家にとってはそれが、自社ブランドの向上に繋がるというメリットとなっている。
相手のメリットを考えて組織をつくることにより、大きな信頼関係が生まれ、最終的には自身に返ってくる。「これこそ理想的なCMのビジネスモデル」とギョーム氏は語る。「コロナ・パンデミックの不安定な時代にもブドウをしっかり確保できた」のも長期間の積み重ねで培った関係性があってこそだったと言える。
市場を読み解くプロモーション
生産量を拡大すると同時に、消費者拡大のためのプロモーションにも積極果敢である。ニコラ・フィアットは、歴史が短い造り手だからこそ行える、伝統にとらわれない斬新かつ遊び心あふれる自由な泡のイメージを、時代に応じたキャッチ―なコピーと共に打ち出している。エールフランス社との契約なども含め国内需要を確固たるものとした後は、海外への訴求も積極的に行っているが、それぞれの国の文化的背景への洞察と配慮を忘れない。シャンパーニュ消費国として世界第三位を誇る日本へ向けた「Hokusaiラベル」や「Sakuraラベル」はその取り組み姿勢を物語っている一例である。
「Hokusaiラベルは東京2020オリンピック・パラリンピック向けにつくりました。海外でも大変著名なアーティストである葛飾北斎の作品"The Great Wave"を取り入れたのは、"日本の伝統と若いモダンな生産者とのコラボにより業界に新しい波を呼び起こしたい"というメッセージを込めたかったからです」とギョーム氏。
Sakuraラベルについては、「我々は日本人に比べ季節感にはやや疎いのですが、桜と共に春を愛でるという日本の感性に寄り添いたかったのです」と解説した。
協力農家に対しても、輸出先の消費者に対しても、驕ることなく敬意をはらい、相手が欲するものを読み解く。そして、それを惜しみなく提供することで互いの関係を良好に保ち、自らの成長につなげていく……ギョーム氏の話からはこうしたビジネスモデルが見えてきた。
今回のインタビューでは、スタンダードの「レゼルヴ・エクスクルーシヴ ブリュット」からプレステージの「パルム・ドール ブリュット」まで、ニコラ・フィアットが推奨する5種類のキュヴェを試飲する機会に恵まれた。それぞれの個性が見事に光っていながら、熟成しても失われることのないフレッシュさとバランスは全ラインナップに共通して感じられ、その一貫したスタイルこそが今の時代に求められているエッセンスだと確信した。