経営・戦略

2023.11.24 08:30

世界最速でつくる民間版世界銀行。鍵は「ストリート・スマートさ」

Forbes JAPAN編集部
1つ目は、日本に本拠がある点だ。

「日本は政策金利の低さだけでは説明できない水準でデット(負債)調達のコストが安い。仕入れコストの安さは同業他社への価格優位性につながる」

2つ目はグローバル展開力だ。地政学リスクなどが指摘される今だからこそ、複数国でビジネスを展開できることはリスク分散につながる。そして3つ目が、「自分がいなくても成長し続けるチームと体制をつくったこと」だと慎は言う。

民主的な会社経営へのこだわり

そのための施策のひとつに、22年に導入した「サティヤーグラハ・パートナーシップ」がある。五常に後から参画した人も、間接的に大株主が得る経済的利益の一部を享受できる仕組みで、世界中から優秀な人材を獲得するうえで一役買っている。

21年からマネージング・パートナーを務めるアルノー・ヴェンチュラもそのひとり。ジャック・アタリとムハマド・ユヌスの支援を受けてPlaNet Financeを共同設立し、Microcred(現Baobab)など世界有数の金融包摂グループを創業してきた連続起業家だ。アルノーが言う。

「欧州や米国ではマイクロファイナンスが生まれたころの熱狂は失われつつあるが、日本と五常には今なおワクワク感がある。熱意を失った状態では世界を変えることはできない。テジュンと五常のチームに出会い、私は興奮を取り戻すことができた」

慎の、民主的な会社経営へのこだわりは強い。それは五常のコーポレート・ガバナンス・モデルにも表れている。五常はスタートアップとしては珍しい指名委員会等設置会社だ。取締役会が慎を含む経営執行側を監督し、同じ構造をグループ会社にも適用している。

「五常が手がけるのは金融のインフラづくりです。誰かの一存で決まってしまう社会インフラは危うい。五常は私の一存で物事が決まることはほぼありません。これは創業以来強く意識してきたし、これからもその姿勢でやっていきます」

一方で、今後の経営課題について聞くと慎は意外なことを口にした。経営者としての「甘さ」の克服だ。

「グループ会社が10社を超えると、根底にある価値観は残しつつ原理原則ベースの統治スタイルを導入しないと立ち行かなくなる。従業員思いのように見せかけて実は冷徹な会社ではなく、一見冷たそうでも内心は優しい会社でありたい」

強さと優しさを磨きながら、五常はさらなるインパクトの創出を目指す。


慎 泰俊◎1981年生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、2014年に五常・アンド・カンパニーを設立。21年に日本児童相談業務評価機関を共同設立。

文=瀬戸久美子 写真=帆足宗洋(AVGVST) ヘアメイク=内藤 歩

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事