今でもそうした面は残っているかもしれない。遡ればキリスト教圏の「赤子のイエスを抱くマリア」像の強い影響もあるだろうし、乳児の養育は主として母親が担ってきたという長い歴史もある。
しかし動物の赤ちゃんと同じく、人間の赤ん坊の小ささ、愛らしさが、性別を問わず多くの人の庇護欲を掻き立てるのは事実だろう。
『赤ちゃんに乾杯!』(コリーヌ・セロー監督、1985)は、独身の3人の男が、突然現れた赤ん坊の世話にてんてこまいになるコメディ映画だ。数々の受賞とヒットを受けて、2年後にはハリウッドでリメイクされ、日本でもドラマ化されたことがあるので知っている人は多いと思われるが、あらすじをざっと紹介しておこう。
ドアの外に赤ちゃんが…
瀟洒なアパルトマンをシェアして独身生活を謳歌している男たち3人は、広告代理店勤務のピエール(ローラン・ジロー)、漫画家のミシェル(ミシェル・ブシュナー)、客室乗務員のジャック(アンドレ・デュソリエ)。ある朝、揺籠に寝かされた乳児がドアの外に置かれているのを発見する。マリーと名付けられたその赤ちゃんを置いて去ったのは、プレイボーイのジャックの元恋人でモデルのシルビア。仕事でアメリカに行くとの手紙が添えられていたが、当のジャックは海外旅行であと3週間も帰ってこない。
驚きと困惑に包まれながら、赤ん坊を放置するわけにもいかず、ピエールとミシェルの見よう見まねの育児が始まる。何の知識もないため薬局でミルクを買うのも一苦労だったり、おむつ替えの最中に噴水のような排尿が起こったり、夜泣きに何度も起こされたり、見ている方は思わず苦笑するが、当人たちにはまったく笑えない場面が続く。
ピエール役を演じたローラン・ジロー(2000年) / Getty Images
ひたすらマリーの世話に追われて、仕事もままならない2人。蓄積される疲労と、どんどん荒れていく室内。そんなカオスの最中に突然やって来るのは、「預かってもらっているブツを引き取りに来た」という2人の見知らぬ男だ。
てっきり赤ん坊のことだと思った2人はマリーを渡すが、実は、ジャックが旅行前、同僚から「日曜に届く小包を木曜まで預かってくれ」と言われており、偶然にも赤ん坊が来た日と同日に届いたその小包を、ピエールもミシェルも開封しないまま忘れていたのだった。
小包の中身が麻薬とわかったピエールはすんでのところでマリーを奪還するものの、往来でそれを見ていた警官に不審がられ、以後2人は、麻薬を入手したいマフィアと、麻薬取引関与疑惑を抱いた警察の双方から、常時見張られることになる。