「海の森」を守れ 蓄養技術で厄介ウニがおいしい食材に

山本雄万|ウニノミクス

生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」への注目が経済界で高まっている。「Forbes JAPAN 2023年11月号」では、先進的なプレイヤーたちの取り組みを特集した。

海の生態系に不可欠な藻場を大繁殖したウニが食い荒らしている。食用にならない厄介者を社会に役立つ存在に転換させる独自システムとは。


ウニの陸上蓄養を通じて、海の環境保全と地域漁業の持続的な発展に取り組むスタートアップがある。2017年1月に創業し、現在はアメリカ、カナダなどをはじめ海外でも事業を展開するウニノミクスだ。

同社が解決するのは、世界各地の沿岸域で発生している「磯焼け」の問題だ。磯焼けとは、魚など海の生き物の産卵場やすみかとなる海藻の群生、藻場が砂漠化する現象。藻場は生物多様性を維持する役割をもつ一方で、CO2を吸収する働きなどをもっており、1haあたりの生態系サービス(人間が自然から受け取る恩恵)の経済価値は15万6700ドル、同じ面積の熱帯雨林の29倍という試算もある。

この藻場を、地球温暖化などによって大量に繁殖したウニが食い荒らしているのだ。磯焼けのなかで育ったウニは痩せて可食部がなく、未利用の厄介者として廃棄されている。

ウニノミクスは売り物にならない磯焼けのウニを買い取り、独自技術によって約2カ月の短期間で蓄養。おいしく育て上げ、飲食店や鮮魚店へ販売する。販売で得られた収益は駆除活動に還元するという、循環型ビジネスを実現している。

同社は、飼料と蓄養システムを独自開発することで、高品質なウニの効率的・安定的な生産、供給を可能にした。飼料は、ノルウェーの食品・漁業・水産養殖研究所(Nofima)から技術の使用権利を取得して応用し、国内大手飼料・食品メーカーと共同開発した。蓄養システムは、欧州の研究機関や養殖機材技術の企業と開発し、ウニの陸上蓄養に特化した、水をろ過して再使用する閉鎖循環式システムを実用化している。これらの技術の開発は「トライアンドエラーの連続だった」と、ウニノミクス事業開発・渉外責任者の山本雄万は話す。

「飼料の主原料は持続可能な方法で収穫された食用昆布の端切れですが、味と色の質を上げながら成長を早めるための原料をブレンドしています。開発には構想から11年ほどを要しました。商業規模でのウニの陸上養殖・蓄養は、そもそも事例がありません。いろいろな種類の飼料や水槽を開発しては試して、また改善してというのを繰り返しました」

ウニの需要は現在、世界で高まりを見せる。最大の消費量を誇る日本では、その需要に国産品だけでは供給が追いつかず、国内で消費される8割近くが海外からの輸入品でまかなわれているのが現状だ。また日本食や寿司のブームにより、海外市場が急速に拡大。ウニノミクスはそこに、勝機を見ている。

国内では蓄養事業の拠点として、大分県国東市に年間生産量18tの「大分うにファーム」、山口県長門市に同34tの「KAYOI UNI BASE」を、現地の水産業者とパートナーを組んで開設。アメリカ、カナダにも拠点を設けており、現地での商業化が目前に。ニュージーランド、メキシコなど、世界各地で現地産のウニの蓄養を目指した実証実験も進行中だ。今後、ウニノミクスが目指す姿を見据えながら、山本は意気込む。

「お客様に畜養ウニをおいしく食べていただくことで、生物多様性と地球温暖化の対策になり、地域も潤う。そんな姿を目指しています」


やまもと・ゆうま◎立命館大学、米国アメリカン大学にて環境政治学と異文化コミュニケーションを専攻。卒業後は、機械メーカーやマーケットリサーチ業界にて約7年にわたり新規ビジネス開拓などに従事。2018年、ウニノミクスに参画し事業開発・渉外責任者に。

文=加藤智朗 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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