「データの提供からコンサル的業務までフルパッケージで受注できればクライアントの予算を独占できるので収益が上がる。それはいいんですが、コンサルは労働集約型のビジネスですからスケーラビリティには限界がある。そこにあまり重心を置きたくないとも思っています。うちの強みはあくまでデータなんです。TNFD対応に必要な情報を提供するプロバイダとして、スケールしやすいビジネスも同時にやっていく」
例えば、大手コンサルファームなどが「TNFD開示を支援します」と謳っても、そのベースとなるデータ自身を彼らがもっているわけではない。そこで、バイオームのデータやサービスを活用する前提で提案書をつくるファームが急増しているという。クライアントに対する価格交渉力のある彼らに相応の対価でデータを提供すれば、バイオームのデータ価値も上げられる。
「ブーム感」に左右されないビジネス構造
一方で、ひとつの需要が長期間継続するとは見ていない。「TNFDは情報開示が義務化されれば安定した需要が続くとは思いますが、全体的に環境系の領域は『ブーム感』が強く、ネイチャーポジティブにも同様の懸念はあります。でも、うちはアセットと商品が分かれているから、とにかくアセットを強くして解析力を高めていけば、表層的なトレンドが変化しても柔軟に対応できます。息が長い商売ができる」バイオームのビジネスは、データを収集する仕組みやデータの解析力さえ強化し続けられれば、パッケージも自然とアップデートされるかたちになる。いったんつくったパッケージのラインナップを維持するためのコストもかからない。特定のブームと心中する構造にはなっていないのだ。
フナ釣りが趣味だった少年時代、藤木は外来魚によって生態系が壊れていく様を目の当たりにして恐怖を感じ、生態学の研究者を志した。しかし、京都大学大学院在籍時の開発途上国でのフィールドワークなどを通じて、自然環境を守るべきという倫理感や義務感に訴えかけるだけでは社会を変えられないと実感し、起業の道を選んだ。
リーマン・ショック以降、環境問題を重大な長期リスクととらえた投資が必要というコンセンサスが市場に定着し、「生物多様性保全の取り組みについても経済的な利益とリンクする環境が整いつつある。エネルギー革命とはまた別の軸で新しい産業革命が起こるはず」と見ている。「ブーム感」に振り回されないユニークかつロジカルなビジネスで革命を先導していく。
ふじき・しょうごろう◎1988年生まれ。京都大学大学院博士号(農学)取得。在学中、衛星画像解析を用いた生物多様性の可視化技術を開発。ボルネオ島の熱帯ジャングルにて2年以上キャンプ生活をするなかで、環境保全の事業化を決意。2017年5月にバイオームを設立した。