国内

2023.11.08 11:00

【独自】冤罪の新事実をグルーミング視点で炙り出す 取調官に恋した過去とトラウマ

西山美香さん 写真=グリフィス太田朗子

 再審で断罪された、男性刑事の不正行為

取調室で男性刑事が女性の容疑者を取り調べる場合、2人きりにならないよう、女性の警察官が立ち会う規則になっている。しかし、西山さんは「2人だけの時がしょっちゅうあった」という。弁護団によると、刑事は女性警察官を部屋の外で椅子に座らせていた。その状況で、西山さんが刑事に抱き着いたり、調書を書く刑事の手の甲をなでるなど、際どい場面が展開された。
 
抱き着いたことは1審(2004、5年、大津地裁)で刑事が認めていた。この驚くべき話を2020年の再審無罪判決は厳しく断罪した。
 
「女性警察官を取り調べ室外に待機させて被告人と2人きりの状態にし、被告人が自身の手を触ってくるのを黙認し」「寂しくなると言って抱きついた(被告人を)あからさまに拒絶することはせず、頑張れよと言いながら 被告人の肩を叩いた」と具体的な事実を認定した上で「恋愛感情に乗じて強い影響力を独占し」「その供述をコントロールしようとする意図(だった)」と認定し、「不当不適切な捜査手法」と結論づけた。

「マインドコントロール」だけでは理解しづらいトラウマ 

逮捕時、24歳だった西山さんは、捜査側の手練手管、つまりは「グルーミング」によって自在に操られ、そのトラウマが20年近くを経た今も残り、苦しんでいるのではないか。再審無罪後に西山さんが起こした国家賠償訴訟で弁護団長を務める井戸謙一弁護士(69)は、こう話す。
 
「西山さんが自白を誘導させられた状況については、マインドコントロール、という言葉を使ってきた。しかし、なぜ今もその状態が続いているのか。理解しにくいところがあったが、ジャニーズ問題でグルーミングによる被害の実態を知って、共通点が多いことに気づいた。西山さんが取り調べ中に受けたことを、グルーミングだったと想定すれば、今も刑事を憎めないという言葉は納得できる」
 
没後に、生前の性加害が社会問題化したジャニー喜多川氏(Getty Images)

没後に、生前の性加害が社会問題化したジャニー喜多川氏(Getty Images)

ことし3月、ジャニーズ問題を告発した英国の公共放送BBCの番組「Jポップの捕食者」では、加害者の故ジャニー喜多川氏を今も慕い「尊敬する」などと語る複数の元ジュニアたちを取り上げ、その言動について「これこそがグルーミング」と指摘した。被害者は苦悩し、時には相手の行為を「加害」と認識できずに、むしろ自分を責め続けるトラウマに陥る。症状は時に長期に及ぶことを番組は浮き彫りにした。
 
似たような例の多くは「ストックホルム症候群」としても知られ、誘拐や監禁された被害者が加害者と同じ空間にいるうちに、好意や信頼、共感が生まれ、時には結束の感情まで抱くことがあり、元ジュニアたちの反応を同様に解釈する専門家もいる。人は、生命や人生が脅かされる「危機」に直面したとき、自らの命や人生を守るため、本能的に加害者に共感したり、同調したりする行動をとることが知られている。グルーミングは、被害者をそのような心理状態に追い込む加害者側の手口ともいえる。
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文=秦融 編集=督あかり

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