あらかじめ捜査側が作り上げたシナリオに沿って証拠が集められ、ジグソーパズルのピースを一つ一つ埋めていくように、供述調書が作られていく。事実ではないのに言葉巧みに誘導されたり、言ってもいないのに書き込まれたりする。そんなことが現実にある。
12年間獄中から無実を叫ぶ、350通の手紙
2003年5月、滋賀県東近江市の湖東記念病院で入院患者の男性(72)が死亡し、翌年、この病院で看護助手をしていた西山美香さん(40、逮捕当時24)が殺人容疑で逮捕され、懲役12年の有罪判決が確定した。男性患者が装着していた人工呼吸器のチューブを「外した」と自白したためだ。
西山さんがまだ獄中にいる2017年5月、中日新聞は「ニュースを問う」という大型記者コラムで、西山さんの冤罪を訴えるキャンペーン報道を始めた。きっかけは、西山さんが獄中から両親に無実を訴え続ける350通余の手紙。それは、心の底から無実を叫び続ける、冤罪被害者の声だった。
2020年3月31日には、大津地裁で再審判決公判があり、晴れて無罪が確定した。
3月31日無罪判決を受け、支援者と報道陣の前で万歳をする西山美香さん(左から2人目)=Forbes JAPAN 編集部撮影
西山さんは、なぜ無実の罪を「自白」させられたのか。取材班と弁護団が協力して行った獄中での精神鑑定で、西山さんに軽度の知的障害と発達障害があることが判明し、捜査の過程で供述弱者の西山さんが自白を誘導されていくプロセスが分かってきた。
そのため、連載「西山美香さんの手紙」では、途中から「供述弱者を守れ」というカットを付けた。障害への配慮が欠ける司法は今も憂慮する。だが、取材を進めると、問題は障害への配慮の欠落だけではないことが見えてきた。
西山さんの事件を通じて「供述弱者」という存在をどう守って行けば良いのか、また日本の司法についての真実を知ってもらうために、中日新聞編集委員の秦融がシリーズでお伝えする。