2004年に24歳の看護助手の女性が逮捕された滋賀県の人工呼吸器外し事件の捜査に潜む「いかがわしさ」は、この話にとどまらなかった。2016年9月、大津支局を別件の打ち合わせで訪ねたデスクの私に対し、この事件の真相の端緒を掴んだ角雄記記者の話は続いた。
さらに決定的だったのは「検事さんへの手紙」だった。
角「西山さんが刑事の言いなりになって自白させられた、という印象が強いのは、公判前にわざわざ検事あてに手紙を書かされているんですよ」
秦「手紙というと?」
角「公判で否認をしても本心ではない、というような文面だったと思うんですが」
秦「自分から?」
角「違います。刑事がわざわざ拘置所に来て、書かせているんですよ」
ここまで来るともはや、開いた口がふさがらない、である。
頼るべきは、刑事か弁護士か
だいぶ後になって、私はその手紙を実際に見ることになる。当時24歳の看護助手だった西山美香さん(40)が検事宛の手紙を書いたのは、2004年7月6日の逮捕から起訴(7月27日)を経て、初公判(9月24日)が開かれる3日前のことだった。
西山さんを意のままに供述させてきたA刑事は、ボールペンと便箋を用意して拘置所を訪れた。A刑事の言うままに西山さんが書いた手紙の全文を紹介する。
「検事さんへ 弁護士さんに少しでもよくみられたい、私のやってしまったことに対して、にげてしまいたいという気持ちがあり弁護士さんに本当のことがまだ話せずにいて、嘘をついて罪状認否の時に否認しようと弁護士さんからも言われたし私もそうしようと考えましたが、否認した後のことを考え、私が今まで警察や検事さんに言ってきたのにと思うと、本当のことを言って、Tさん、Tさんの家族に一生かけて罪を償っていきます。弁護士さんにもこわいですが本当のことをきちんと話をしてわかってもらおうと思います。もしも罪状認否で否認してもそれは本当の私の気持ちではありません。そういうことのないよう強い気持ちをもちますので、よろしくお願いします。平成16年9月21日 滋賀拘置所 西山美香」
文末には、指印まで押してある。
この内容から想像するに、この時点で西山さんには頼るべきなのは、刑事と弁護士のどちらなのか、という迷いがあったことがうかがえる。