そうした中、家電売り場や携帯ショップなどで徐々に注目を集めている商品がある。 防犯と見守り、お守り、3つの機能を持つ「omamolink(オマモリンク)」だ。かつてなかった発想の防犯アイテムとして、下は小学生から上は90歳まで、幅広い年代に口コミで利用が広がっている。自らも性暴力の被害経験を持つ起業家、grigry代表の石川加奈子によって開発された。
omamolinkは、既存の防犯アイテムとは何が違うのか。そして開発の背景、石川が同製品を通じて実現したいビジョンに迫った。
利己と利他を重ね見出した、進むべき道
いくら防犯意識を持ち、防犯ブザーや催涙スプレーなどの防犯アイテムを購入して備えていても、あることで効果は無に帰す。いつの間にか持ち歩かなくなることだ。石川もそれを体験した1人だ。石川は早稲田大学を卒業後、内閣官房内閣情報調査室に9年間勤務。2013年に渡米し、危機管理の教育と研究を手がける非営利組織、International Institute of Global Resilience(IIGR)で総務開発部長を務め、帰国後はフリーランスのコンサルタントとして活動している。そんな彼女は、学生時代から20代にかけて度々性被害に遭っていた。
「自分が性犯罪に遭うとは思っていなかったので、何の準備もしていませんでした。よく声を出しなさいとか、逃げなさいとか言われますが、いざとなったら頭が真っ白になって。足がすくんで逃げることもできないし、声を出すこともできませんでした。
性暴力を受けると、なかったことにしようと思って自分の中で蓋をするんです。でも忘れようと思えば思うほどフラッシュバックが襲ってきたり、ただ涙が出てきたりして。あの時、自分はどうすれば良かったのか、ずっと考えていました」
そんな石川に転機が訪れたのは、帰国後に通っていた経営大学院でのこと。卒業を間近に控えたある日、クラスで「天命とは、利己と利他が重なるところにある」と教わり、雷に打たれたような気がしたという。
「自分の経験を生かして防犯アイテムを作ったら、私と同じように性暴力を受ける人を減らせるかも知れない。自分の過去も救えると思いました」
石川はすぐに既存の防犯アイテムについて調べ始めたが、いくつかの事実に気づく。店舗に並んでいたのは、お決まりの防犯ブザーや催涙スプレー、スタンガン、メリケンなどで、テクノロジーが進化を遂げているにもかかわらず、その顔ぶれは10年前からあまり変わっていなかった。そして石川自身も被害を受けた後、防犯アイテムを一通り購入していたが、日頃から持ち歩けてはいなかった。
「防犯アイテムは『もしも』の時のためのもので、いくら機能があっても面倒な気持ちが勝り、いつの間にか持ち歩かなくなります。そのため、人がすでに持ち歩いているもの、持ち歩きたいと思うものに、防犯のテクノロジーを掛け合わせればいいのだと考えました」