起業家

2023.10.31 10:30

原点は自らの性被害。「スマートお守り」が変える、課題だらけの日本の防犯

圧倒的な技術不足、底をつく資金━━困難を乗り越えて

そんなomamolinkだが、製品化までの道のりは苦難の連続だった。当初、石川が思いついたのは、「ココロン」という携帯型お守りロボットだった。ユーザーの歩いた距離や世話、ストレスのレベルに応じて成長する仕様で、いざという時には防犯ブザーやSOS発信などのセキュリティ機能が作動。アロマオイルで、ユーザーのストレスを和らげる機能も備えていた。

しかし、アイデアは描けたものの、石川には技術的なバックボーンがなかった。そのためプロトタイプを作れず、資金集めは困難を極めた。また、携帯型のお守りロボットを形にするためには、ロボット機能とセキュリティ機能、両方の開発が必要になる。そして、同じコンセプトの商品が市場に存在しなかったため、消費者に持ち歩いてもらう難易度が高いことも問題になった。

結果、石川はココロンを現在のomamolinkへとピボットさせること、そしてホンダの産業向けロボティクス分野の開発を指揮していた現在の同社CTO、福嶋友樹氏との出会いによって障壁を乗り越えた。お守りロボットをスマートお守りに変えることで、ロボット機能の開発を不要にし、携帯性を高めた。一時は会社のキャッシュが底をついたこともあったが、地道な投資家への働きかけや、2021年5月に出演したYouTubeの投資番組「令和の虎」などで資金を調達。紆余曲折の末、omamolinkの製品化まで漕ぎ着けた。

朝活や恋活のように、防犯する日本へ

最近では、セクシャルハラスメントやカスタマーハラスメントなど、業務中の安全対策としてomamolinkの法人利用が広がっている。

大手の外資系高級ホテルでは、従業員がルームサービスなどで顧客の部屋を訪問することについて、不安の声があがっていた。その対策として3月、omamolinkを導入。また、介護大手のニチイ学館も、在宅介護の現場での安全対策を目的として、10月にomamolinkを導入した。他にも、訪問医療を手がける法人や個別訪問型の営業活動を行う企業、エステサロンの運営会社など、法人からの問い合わせが増えている。

石川は今後、omamolinkのSOS受信機能のアップデートや海外展開、大学との連携も予定。さらに「守活(まもかつ)」と題して、ホームページやイベント、YouTubeなどを通して行っている護身・防犯に関する啓蒙活動についても、引き続き注力していくという。

「日本は諸外国と比べて犯罪発生率が低いこともあり、危機感が本当に薄い。でも被害に遭う確率はゼロではありません。事前の準備こそ重要で、何かあってからでは遅いんです。

自分や大切な人を守ることは、マイナスをゼロにすることではなく、ゼロをプラスにすることです。朝活や恋活と同じような意識で身を守ることに取り組み、自由に人生を楽しんでいただけるように、これからも働きかけていきます」

防犯をポジティブで当たり前のものへ━━。omamolinkが日本の防犯のあり方を変えるきっかけになることを期待したい。


石川加奈子 ◎ grigry代表取締役社長。 大学卒業後、内閣官房内閣情報調査室にて情報収集・分析業務に従事。2013年に渡米し、International Institute of Global Resilience(IIGR)にて総務開発部長を務める。その後帰国し、コンサルタントとして独立。2019年春にMBA取得。同年7月grigryを設立し、お守り型の護身・みまもりデバイス「omamolink」を創業・開発。

文=大柏 真佑実

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