いえ。ブロックチェーンという不安定な領域で、スケールするビジネスモデルに変えていかなければならないという新たな課題が出てくるわけです。そこで当時まだそれほど実用化されていなかったNFTに注力することにしました。有名なアメリカのデジタル・アーティストBeepleが、アートをNFT作品として出したのが2021年なので、それよりも2年ほど前のことでした。
僕らはNFTをデジタル世界で完結する形ではなく、リアルの世界にもインパクトを与える形にしたかったので、現実資産のトークン化に取り組むことにしました。そこで始めたのが、2020年にお酒の商社とのジョイントベンチャーで立ち上げた「UniCask」というビジネスです。
酒樽の取引をNFTで民主化
──どんなビジネスなのでしょう?お酒の樽を多人数で分割してNFTで所有権を証明し、かつ自分の所有する樽を使ってお酒の売買ができるようにしたサービスです。これまで業者しかやっていなかった酒樽の取引を、個人ができるように民主化しました。
2021年に販売した4000万円の樽は100分の1に分割した40万円前後のトークンが9分ほどで完売しました。時間の経過とともにウイスキーが熟成して美味しくなるので、資産価値は安定して上がっています。これはまさに時間の価値を売ってるんですね。
時間の次は空間の価値に取り組んでいます。2021年から始めた「ANGO」というサービスは、日本の地方に埋もれている古民家や空き家を利用し、宿泊施設を開発するものです。
──実際にスタートアップを経営していくなかで、何か発見はありましたか?
外から見ると、スピーディに最先端のビジネスをやっているスタートアップは華やかに見えます。でも実際はオペレーショナルなタスクもする必要があるので、CEOといっても雑用ばかりやっている時期もありました。
コンサルタントの時はロールが決まっていたし、実家のビジネスも700人規模の組織だったので管理業務だけに携わっていましたが、スタートアップでは最初は自分が全部やらなきゃいけない。僕はそういうハンズオン的な感覚が好きなので、非常に面白かったですが。
あとは、プレッシャーに強くないと務まらないなと思いましたね。常にキャッシュフローとの戦いですし、翌月お金が回るのかもわからないような状態に耐えつつ、夜はちゃんと眠れるようにしなきゃいけないですから。
──日本の資産を活用したビジネスですが、日本の強みはどのような点にありますか?
リアルの世界にある価値をデジタル上で感じさせるのが、ブロックチェーンの未来だと思っているんです。データは100%同じコピーが作れるので、デジタルの世界に所有権はありません。でも人間は、リアルの世界と同じくデジタルの世界でも所有する喜びが欲しいんですよ。そういうリアルの感覚をデジタルの世界で再現したのがブロックチェーンなんです。
その意味で、日本のようにリアルの世界にいろんな商材がある場所との相性がいい。日本は世界的に見ても、アナログの世界で効率よく高品質なサービスやモノが作れる社会なんです。ジャパニーズウイスキー、有田焼、古民家なんかがその良い例ですね。良いモノが丁寧に作られてる。これが日本の強みですが、そういった価値は過小評価されている。デジタルの力を使って、こういう日本の価値を世界に発信していくことを目指しています。