宇宙

2023.10.25 09:45

おもちゃ技術で月面を攻略。超小型の月面ロボットが生まれるまで

SORA-Qの特徴は、小型・軽量でありながら、自律制御機能が搭載されていることだ。撮影した画像から良質な画像を選定し送ることもできる。カメラや車輪を動かすSORA-Qの頭脳ともいえる制御ボードはソニーグループが提供した。宇宙は真空なので放熱ができない。そこで市販品だが、小型かつ軽量、低消費電力な点で優れたボードコンピュータSPRESENSETMが選ばれた。だが、SORA-Qに制御ボードのサイズが合わないことが判明。ソニーグループの研究開発員・永田政晴が自社の工作室で加工しサイズを調整した。ソニーグループは地球のあらゆるところをセンシング可能にするプロジェクト「地球みまもりプラットフォーム」も進める。「今回の経験を生かし、地上で使われる様々な技術を宇宙空間にも展開していきたい」(永田)。
月面を再現した地面を走るSORA-Q。球体から変形し移動する。左右の車輪を同時、また別々にも動かすことができる。黄色い部分のカメラが付近の様子を撮影、画像を地球に送信する。

月面を再現した地面を走るSORA-Q。球体から変形し移動する。左右の車輪を同時、また別々にも動かすことができる。黄色い部分のカメラが付近の様子を撮影、画像を地球に送信する。

SORA-Qの1/1スケールモデル「SORA-QFlagship Model」は9月から市販。購入層はアポロ計画で月面に魅了された60代も多いのだという。タカラトミーのアライアンスキャラクター事業部部長・赤木謙介は「今まさに月面に向かっているロボットを商品としても提供するのは新しい取り組み。子どもたちが自然科学に興味を持ち宇宙の面白さを知るきっかけとなってほしい」と語る。

SLIMとSORA-Qの月面着陸は2024年1〜2月を予定。SORA-Qが証明するSLIMの着陸技術、ロボット技術は、将来の月探査や有人拠点建設にも役立てられる。さらに、渡辺はSORA-Qの技術を生かし、2050年代の月や火星での生活を見据えたロボット技術研究に取り組んでいる。手のひらサイズの月面ロボットの開発経験が、各者の取り組みを宇宙規模へと広げようとしている。


渡辺公貴◎精工舎等を経て1998年タカラトミー入社、戦略開発部長等歴任。20年より同志社大学生命医科学部教授。

永田政晴◎ソニーグループ シニアソフトウェアエンジニア。19年より宇宙・衛星関連技術の研究開発プロジェクトを率いる。

平野大地◎JAXA宇宙探査イノベーションハブ 主任研究開発員。SORA-Q開発主担当としてプロジェクト管理等に従事。

赤木謙介◎タカラトミーアライアンスキャラクター事業部部長。タカラトミーにて「SORA-Q」プロジェクトリーダーを務める。

文=井上榛香 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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