経済・社会

2023.10.18 11:45

北陸新幹線 美食観光経済圏の可能性とは

「越前・蟹三昧懐石」グランディア芳泉(あわら温泉) 越前ガニの解禁は11月6日

1979年、元ハーバード大学名誉教授で社会学者のエズラ・ヴォーゲルの著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が発刊された。当時日本は、多くの分野で世界の模範となっていました。それから半世紀、日本の国力は大幅に低下した。今日本は、世界に誇れる分野はあるのでしょうか? まさにそれが、日本の食文化と言っても良いのではないでしょうか。

2024年3月16日には、北陸新幹線はいよいよ福井(敦賀駅)まで延伸する。これで東京から日本海の食材の豊富な糸魚川、富山、石川、福井まですべて一本で結ばれることになります。

そこで、世界に誇る日本の食文化の魅力、北陸新幹線美食観光経済圏の様々な可能性について、食文化、シャンパン、ワイン、飲食経営者などの専門家の方々からご意見を伺っていきます。今回は、一般社団法人日本ガストロノミー協会会長の柏原光太郎さんに、なぜ日本の食文化が、世界の食通を魅了するのだろうか、具体的事例含めてお聞きします。

カギを握る高付加価値旅行者

鈴木幹一(以下鈴木):コロナがほぼ終息した今、多くの外国人観光客が全国の高級和食店に押し寄せています。また観光庁は、地方における高付加価値なインバウンド観光地域づくり事業のモデル観光地として11地域を3月末に発表、これからは、国の施策として多額の予算が、地方への観光誘客策に投入されると思われます。 柏原さんは、海外富裕層・美食家の誘客こそが、地方創生の切り札だと言われておりますが、具体的にお話しいただけますでしょうか。

柏原光太郎(以下柏原):そもそも日本の食文化が世界で評価されているのだろうかと疑問に思ってらっしゃる方もいるかもしれません。そこでコロナ真最中の2021年10月に実施された、「アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査」(日本交通公社・政策投資銀行)を見てみましょう。これは、世界12地域6000人余りに「次に海外旅行したい国・地域」を調査したものですが、アジア人を対象にしたものでも、欧米豪人を対象にしたものでも、ともに日本が1位なのです。しかも、その理由は「食事が美味しいから」「清潔だから」といったものでした。

実際、2022年末からコロナ対策緩和と並行して急速なインバンドの回復が数字からもみてとれます。6月で2019年比70%ですし、4-6月期でインバウンド消費額は1兆2000億(95%)となっています。野村総研の7月20日の予想数字では、2023年度のインバウンド需要予想5.9兆で、2022年の所信表明演説で岸田総理が「訪日外国人旅行消費額を年間5兆円以上にする」と表明した数字を早くもクリアしそうな勢いです。

さらに中国も8月10日から団体客を解禁しました。いまは「処理水問題」で予想よりは回復がおくれているようですが、本格回復すれば、日本に海外からたくさんの観光客がやってくることは明白です。

そのなかでも注目すべきなのは「フーディー」という存在です。フーディーとは世界中を飛び回って美食を楽しむ客のこと。2014年に制作されたドキュメンタリー映画「99分、世界美味巡り」で彼らの存在が認知されはじめたと言われますが、彼らが世界中の美食を発見し、それをネットやSNSを通じて発信することで、食文化に興味がある世界中の観光客が食を中心に世界を旅するようになっていったのです。フーディーはいわば「食オタク」ですから、彼らは食にしか興味がないかもしれませんが、彼らから情報を得た食が好きなインバウンドたちは美食の楽しめる街に訪れるだけではなく、そこから広範囲に移動します。それが地方を活性化させるようになってきたわけです。
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