国内

2023.10.18 17:30

4人の有識者が考察。ビッグ・フラット・ナウ時代の地域活性のあり方と勝ち筋

市来:20年前の熱海は、街を訪れる人と地元の人のコミュニケーションが「観光客と定住者」という閉鎖的な関係でしか成立せず、街の多様性と寛容性が低くなり、衰退していきました。そうではなく人と人との関係を解きほぐしていくために、そして観光では物足りないけど移住までは踏み切れないような人たちのために始めたのが、熱海の人を案内役としたローカルな街歩きツアーです。

例えば昭和から続くレトロな喫茶店やスナックは、地元の人だからこそ知るストーリーを話しながら案内することで、ツアーに参加した人は感動し、街に愛着をもってくれます。案内役の地元の人はその反応がうれしくてどんどんと語るようになり、ツアーを通じて熱海の魅力を再認識し、自信を取り戻していきます。この好循環によって、観光客でも地元の祭りに参加できるようになるなど、どんどんと街はひらかれていく。そして多様性と寛容性が高まることによって名物の祭りも継続できるのです。

武邑:ベルリンから北へ1時間ほど車を走らせたところに廃村があるのですが、不思議なことに、そこを再興したのは日本人コミュニティでした。地元民の高齢者比率が非常に高く、あたりに何もない廃村でしたが、どことなく日本的なギャラリーやカフェがつくられたことで、いまではベルリンから人が集まり、ヴィム・ヴェンダースもやってくるほどの注目度を誇ります。ベルリン在住のふたりの日本人女性は、地元の人々と親交を深め、意見をくんだうえで、手探りながらも2年で施設の原型をつくったといいます。

その日本人コミュニティは、何もない村だからこそさまざまな可能性を見いだし、新しいコラボレーションや祭りを生み出すことができたのではないでしょうか。「祭り」という日本語に、“停滞した「間」を「つる」”という語源があるように、日本人は古くから人々は間をつる(祭る)ことで何もないところやたるんだところに緊張を生み出し、持続的にコミュニティの結束を高めてきました。この国民性は、人と人・人と場をつなぐ場づくりに長けているのではないかと思うのです。

花井:土地の文脈を守りながら寛容性を生んでいるポルトガルの事例、定住性に特化したソロメオ村と石見の事例、さらにはマレビトによって街が再生した熱海とベルリンの事例。昨今、個人の時代として分散型自律の働き方も推奨されていますが、どの事例を取ってみても、誰かと顔を突き合わせての対話の連なりが人生を左右することには変わりないことがわかります。リアリティが溶け出してしまうビッグ・フラット・ナウ時代では、これまで以上に人間主義的な組織や地域活性の重要性が高まっていくのでしょう。
いわさき・はるお◎HOP代表取 締役 COO。三井物産入社後、 イタリア三井物産社長、在イタ リア日本商工会議所会頭を経て、 寺田倉庫常務取締役COO就任。 2018年HOPを設立。訳書に『人 間主義的経営』(ブルネロ・ク チネリ著)。

いわさき・はるお◎HOP代表取 締役 COO。三井物産入社後、イタリア三井物産社長、在イタリア日本商工会議所会頭を経て、寺田倉庫常務取締役COO就任。 2018年HOPを設立。訳書に『人間主義的経営』(ブルネロ・クチネリ著)。

文=肥高茉実 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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