政治体制の分断が拡大して予算が成立せず、行政の長を弾劾すべきか否かといった争点に多くの時間が割かれるようになると、政治は機能不全に陥る。それが米国の現状であり、ハマスが攻撃を仕掛ける前夜のイスラエルの状況もよく似ている。
イスラエル政府の混乱ぶりがハマスの思考回路にどう作用したかは永久にわからないかもしれないが、こうした散漫な政治が強さや団結のイメージを伝えないことは明らかだ。
デマの蔓延
「戦争の最初の犠牲者は真実である」という警句がある。政府が戦争に関する情報を独占し、好ましからざる詳細を隠蔽しようとすることを突いたものだ。しかし、デジタル時代においては、ソーシャルメディアを通じた言論の民主化によって、平時でさえ真実はつかみどころのない代物と化している。誤情報は蔓延(まんえん)しており、イスラエルとハマスの武力衝突もその例に漏れない。衝突が始まって間もなく、イーロン・マスクのX(旧ツイッター)には、紛争関連ニュースをめぐって信頼できない情報源にユーザーを誘導しているとの非難が殺到した。
マスクがオーナーに君臨するXは、内省よりも即時性を、ニュアンスよりも感覚を重視するソーシャルメディアのエコシステムを象徴している。ハマスの攻撃開始から100時間もすると、インターネット上には恣意的な報道、根拠のないうわさ、誤解を招く画像があふれかえった。
正確な報道に努めるメディアは今もたくさんあるし、おそらくその数はかつてなく多い。だがそうしたメディアは、責任感の薄い情報源との競合を余儀なくされている。そして、ユーザーが不正確な情報を見分けるのは多くの場合、簡単ではない。
その結果、米政府やイスラエル政府は、戦争に対する国民の支持を維持できそうな、信用に足る「物語」を構築するのが難しくなっている。この問題は今回のイスラエルとハマスの衝突にとどまらず、現在の極端な党派性によって大きく煽られた米国内安全保障に対する将来の脅威においても繰り返されるだろう。
安全でない国境
イスラエルとガザの境界には、高いフェンスとさまざまな侵入検知センサーを備えた非常に高度な警備システムが設置されていると考えられていた。しかし、ハマスの戦闘員はこれを比較的容易に越え、その結果、民間人数百人が死亡し、複数の村が占拠された。米南部の国境はガザの境界よりはるかに長いが、越境行為が起きやすい場所にはフェンスやカメラ付き監視塔など、ガザ境界と同じような警備システムが多数設置されている。それでも、控えめに言って国境は安全ではない。