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2023.10.06 18:30

投資家9割がNO 「型破り」な調達を行ったコテンラジオCEOの哲学

売上予想を開示せず、9割が投資を断念


「投資家に開示したのは、現在の売り上げのみでした。目安としての売り上げ予測は作っていましたが『あくまでも長期目線で見た時に価値があると思われるなら投資をしてください』とお伝えしました」
 
またIPO義務も無しとしたため、結果的に、コミュニケーションを取った9割以上の投資家は「それではお金を出せない」と交渉のテーブルから降りた。それでも一部の投資家は深井の主張に共感し、1億2000万円が集まった。
 
ではなぜ、従来の資金調達に異議を唱えるのか。その理由を深井は「結局、われわれが幸せになるためには、これ以上お金持ちになる必要はない。哲学を学んだり、社会情勢を見てきたりしたなかで、そのことを実感したのです」と語る。
 
深井いわく、仏教において豊かさとは「捨てる」ことと定義されているという。物理的には使わないものを手放し、精神的には煩悩や不安を取り去ることで、幸せで豊かな状態になる。つまり、不要なお金を溜め込むことは、幸せとは逆行した行動というわけだ。
 
仏教ではまた、すべてのものに実存はないと考えるという。 例えばピラミッドは石の塊を積み上げたものだが、何段積み上げればピラミッドと呼べるのか。あるいはヒトが妊娠した時に、どの瞬間から胎児へと人格が分離していくのか。どちらも実存はなく、その認識はそれぞれ人によって変わるのだという。
 
「さらに突き詰めて考えると、世の中のモノはすべて原子でできています。するとピラミッドの石も母親の中にいる子どもも、どこからがそのモノであり人間であるのかは定義できません。同じようにお金も、どこから所有している状態なのかはわからないわけで、持っているというのは幻想であるという考え方ができます」
 
もちろん深井は、このような哲学上の考え方だけで、お金の所有に意味がないと主張しているわけではない。
 
「この哲学を理解したうえで社会を眺めると、世の中はどんどん富が増えているはずなのに、うつの人はたくさんいるし、孤独を感じている人も多い。
 
もちろん最低限のお金は必要だし、僕自身もお金をもらうことは嬉しいです。でもやっぱり、必要以上に持っていても、それ以上の幸せは生まれないのです」

100年後の人類がどう思うか


NGOやNPO、財団や基金などが扱うテーマは、投資家が利益を生む可能性を見いだせない領域とも言える。深井はそこに一石を投じる。
 
「100年後の人類がいまの僕たちを見た時に、十分富があるのに、まだそれを追い求めた投資活動を続けていたのかって思うんじゃないかな。なんでもっと重要なことに時間とお金を使っていなかったのかと言われないように、これからも僕なりに実験的に新しい試みを模索していきます」
 
最近では、社会課題の解決と経済的リターンの両立を目指すスタートアップ(インパクトスタートアップ)も増えている。ただ彼らにも投資家がいて、大きなマイルストーンの1つとして見据えるのはIPOやM&Aだ。
 
一方で、短期の成功にとらわれず、人類にとって有益なデータベースをつくるという深井の強固な姿勢は、インパクトスタートアップの本来の役割を考えさせられるものでもある。

文=露原直人

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