「完売しているのに空席」 日本がチケット産業で遅れをとっているわけ


ちなみに、業績開示を行っているぴあの2023年度連結決算は売上高327億6300万円に対し、営業利益は8億2000万円。利益の大半は販売手数料に依存するものであることから、システムの更新やコールセンターの維持管理、独自の会員組織の維持管理などを節減することが出来なければ、ビジネスの成長はもとより存続も危惧されることは否定できない。

このため、大手3社は独自の事業成長戦略を講じている。イープラスはフェス興行元への出資や自主興行、ローソンも自主興行を行うほか、シネコン経営や旅行事業などに社業を拡大。ぴあは独自のアリーナを横浜にオープンし、会場経営に乗り出している。

さらに、3社に次ぐCNプレイガイドも含め全社が、独自の会員組織を維持するために会員優先のチケット先行販売期間を設けたり、エンタメ情報を定期的に会員に提供したりと、個人情報の取得と管理でも凌ぎを削っている。

ぴあの会員数は、アクティブユーザーの割合は不明ながら1700万人。イープラスは20年から独自のモバイルアプリによる会員獲得を開始し、すでに500万インストールを獲得している。しかし、これらの会員の個人情報はあくまで委託販売事業者が独自に管理しているため、興行元に開示することは法的保護を盾に拒まれてきた。そのため球団やアーティスト側が自らのチケット購入者を把握したくても、メールアドレスはもとより決済情報を得ることは出来ない仕組みが続いてきたのである。

つまり、複雑なチケット販売方式がガラパゴス化を助長し、産業構造上、販売方法の統一化ががほぼ不可能な状況に陥っているのである。さすがに効率化のニーズに迫られた3社は、大分ガスの子会社と日本ユニシスが開発した業界共通の票券管理システム「オーガス」を運営するオーガス社に共同出資。配券、返券、管理を3社の顧客に提供するTAプラットフォーム社(旧:オーガスアリーナ社)を新たに設立した。ASPサービス(インターネット上でアプリケーションを提供するサービスのこと)事業社として傘下に取り込んだ。

TAプラットフォーム社の共同運営により、販売状況や公演情報などを各社で登録する必要がなくなり、その煩雑さは解消されたが、消費者の利便性に直接貢献するわけではない。

二次流通チケットの鍵は「透明性」

先述のとおり欧米では二次流通チケット事業の規模が成長を続けており、取引の透明性も高い。売り手、買い手、仲介事業者など取引履歴がわかるほか、一次購入時より高額でチケットが転売された場合は差額の利益を転売者、興行元、転売プラットフォーム事業者がどのように分配したかを明確にし、税務当局は差益に対して課税を行う。

また、AIとアルゴリズムの進化により、偽名やロボットを使った転売目的の大量購入を阻止する精度が高まり、興行元と消費者の双方にとって二次流通は有益性をもたらしている。

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文=北谷賢司 編集=川上みなみ

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