「完売しているのに空席」 日本がチケット産業で遅れをとっているわけ

(Photo by Takashi Aoyama/Getty Images)


国内のデジタルチケットへの移行を遅らせているもう一つの理由は、2019年6月に発効したチケット不正転売禁止法による二次流通市場の実質的な壊滅である。
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国内では過去に、二次流通サービスとしてミクシーの子会社が運営するチケット転売サイト「チケットキャンプ」があったが18年5月で廃業。日ハム、ロッテ、オリックス球団の公認再販パートナーとなっていた「チケットストリート」も20年9月に盗品等有償処分斡旋容疑で摘発され、21年5月で業務を停止している。つまり、ネットで個人が所持するチケットを転売することは罪に問われないものの、正規事業として購入価格を上回る額でチケットの取引を斡旋することは違法行為とみなされるのである。

再販できず目立つ空席


ぴあが運営するぴあリセール、イープラスのチケプラトレード、ローソンのチケトレなど券面価格以下の取引を扱うサービスは存在するが、10%前後の手数料がかかるため利用者の数は少ない。そして大半が前日までしか受け付けていないため、急病や緊急用件で会場に行けなくなった消費者がチケットを再販する術はほぼ閉ざされている。

このため、仮にチケット購入者が現れなくてもその席を再販することは出来ず、完売したはずの会場に空席が散見され、テレビ映りやアーティストの印象を損なうことにもつながりかねない。この問題は国内スポーツのシーズンチケットでは顕著で、テレビ中継される野球やラグビー、サッカーなどの会場では完売のはずであるにも関わらず、空席が目立つことが往々にある。シーズンチケットは法人購入の比率が高く、接待用として使用されることが多いため、社内でも希望者がいない場合は、空席のままにされることも少なくない。

デジタルチケットが導入されていれば、こうした席はアプリ上で瞬時に第三者に転売できる。試合が開始した後でもすでに着席している観客にアップグレード・オファーを出してリアルタイムで席を譲ることも可能である。


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デジタルx二次流通チケットのもたらす効果

世界全体のチケット総売り上げ780億ドルの2割をシェアとして獲得している最大手「チケットマスター」は、年間に4億8千万枚のチケットを販売している。2017年から「プレゼンス・システム」と称されるフルデジタルのプラットフォームをNFLの全チームと会場にホワイトレーベル方式(他社が開発・製造した商品やサービスを自社ブランド名で販売する方式)で提供しており、シーズンチケットを含む二次流通もNFL独自のチケット交換サービスに加え、NFLが公認する二次流通事業者にも開放利用させている。
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こうしたリアルタイムで管理できるデジタルチケットの導入は、大学スポーツにも浸透している。アイオワ州立大学は2020年から破格でフットボールのシーズンパスを販売。どの席に座れるかは開場寸前までわからないものの、高額席が使用されなかったり売れ残ったりした場合は最善の席が与えられるシステムで、売り上げが従来より年間約2億円増加した。

シーズンチケットの二次流通サービス機能と組み合わせることで、大学側や観客だけでなく、空席が目立たないことでテレビ映りもよくなり、放映権を購入した放送局にもプラスになる。チケットマスターのデジタルチケットは、個人顧客ごとに恒常的に変化するバーコードが付与されているため、写真での不正入場は出来ない。さらにチケットが第三者に移譲される場合は、その人物が新たに個人登録をシステム上で行わなければならないため、リアルタイムで個々のチケットを転売価格を含めて追跡することが可能となる。北米のチケット業界2位のAXS社でも同様に、個人ごとに変化するQRコードを付与する方式が取られている。

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文=北谷賢司 編集=川上みなみ

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