スポーツ

2023.09.25 17:50

115回優勝のF1チームオーナーはトップの座を取り戻せるのか

英F1チーム「メルセデスAMG・ペトロナス」の共同オーナー兼チーム代表のトト・ヴォルフ。(Chris Putnam / Future Publishing / Getty Images)

彼は、子供のころからレーシングカーのドライバーになることを夢見ていた。だが、身長が約195cmと高すぎることもあり、早々にビジネスの世界に転向。1998年にウィーンでハイテク・インキュベーター「マーチフィフティーン」を設立した。2年後、28歳になったウォルフは3000万ドル以上の利益を上げるようになり、夢だったカーレースの世界に戻って若いドライバーの育成を始めた。そして、メルセデスの下部レーシング・チームのサプライヤーであるエンジン・メーカーHWA AGにかかわるようになったのだ。彼は06年にHWAの株式の49%を取得すると、その後1億7500万ドルでの同社の新規株式公開(IPO)に貢献し、自らはさらに8500万ドルを手にした。
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数年後、ウィリアムズのF1チームに出資し、12年にはスペイン・グランプリでの優勝に貢献。その年ウォルフは、苦戦していたメルセデスからマネジング・ディレクターのポジションをオファーされ、共同オーナーとなることを条件に、13年にウィリアムズを離れ、メルセデスの株式の30%を推定1億6500万ドルで取得した。

いいタイミングでの移籍だった。F1のルール変更で、メルセデスが1億ドル以上を投じて開発してきたハイブリッド・エンジンの使用拡大が認められたからだ。成果はすぐに表れ、メルセデスは14年にコンストラクターズとドライバーズのダブルタイトルを達成、一強時代がスタートした。

それが23年のコスト制限設定によって、各チームは機器、エンジニアリング、人員を合わせて約1億5000万ドルの支出しか認められなくなった。
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F1にはいま、Netflixのおかげで強い追い風が吹いている。19年に始まったドキュメンタリー・シリーズ『栄光のグランプリ』ではF1の各シーズンを時系列で紹介しているのだ。特に米国ではこれまでF1の人気はいまひとつだったが、23年11月にはラスベガスで第3回米国グランプリが開催される予定で、人気は上昇する一方だ。「F1は成長を続けています。でも、それを当然だと思ってはいけません」(ウォルフ)

ウォルフは、チャンピオンにならなくても収益を確保できる現状に甘んじてはいない。優勝に向けた取組みで力を抜くつもりなどないのだ。

「トップ争いに加わっている限り、毎年勝てるなんて誰も思っていませんよ」


メルセデスAMG・ペトロナス・F1チーム◎ドイツの自動車メーカー、メルセデス・ベンツを母体とするF1チーム。本部は英国ブラックリー。実質的には2010年からF1に参戦、12年から現在の名称となった。10年、11年は不振に終わったが、13年にトト・ウォルフを迎え、14年にはコンストラクターズとドライバーズ、双方のランキングでダブルタイトルを達成した。

トト・ヴォルフ◎オーストリア・ウイーン出身。元カーレーサー。1998年にハイテク・インキュベーターを設立。利益を上げてドライバーの育成を開始。HWA AGへの投資を経て、ウィリアムズF1チームに参加。成績を評価され、メルセデスのチームに招かれ、マネジング・ディレクターを経て最高執行責任者(CEO)となった。

文=ジャスティン・バーンバウム 翻訳=フォーブス ジャパン編集部

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