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2023.09.25 17:50

115回優勝のF1チームオーナーはトップの座を取り戻せるのか

英F1チーム「メルセデスAMG・ペトロナス」の共同オーナー兼チーム代表のトト・ヴォルフ。(Chris Putnam / Future Publishing / Getty Images)

英F1チーム「メルセデスAMG・ペトロナス」の共同オーナー兼チーム代表のトト・ヴォルフ。(Chris Putnam / Future Publishing / Getty Images)

10年にわたりトップに君臨していたF1チーム、メルセデスを率いるオーナー。コスト制限という逆風をはねのけて、再びの勝利を目指している。

日本人選手や日本企業の参戦もあって、日本でも高い人気を誇る世界最高峰のカーレース「F1世界選手権(フォーミュラ1)」。近年、Netflixで配信されたドキュメンタリー『Formula 1: 栄光のグランプリ』の人気も手伝い、裏方のスタッフにまで注目が集まっている。なかでも特に人気の高いカリスマオーナーの経営哲学とは。


英国ブラックリーにあるメルセデスAMG・ペトロナスの本部。このF1チームの共同オーナー兼チーム代表を務めるオーストリア人ビリオネア、トト・ウォルフ(51)は1台の車の後車軸に目を留めた。右の車輪が壊れているのが気になった彼は、直ちに修理を要請する。といっても、そこはチームのファクトリーではなく、彼も800万ドルの本格的なF1マシンをチェックしていたわけではない。ウォルフが不備を指摘したのはメルセデス・ベンツのクラシックモデルの模型で、全長数インチにすぎない。

「周りはうっとうしいと思いますが、とにかく不完全であることが許せないのです」(ウォルフ)

完璧を求められ過ぎると、負担に感じる人も多い。だが、10分の1秒に満たない差で勝敗が決まるF1でウォルフのチームが勝利を収めてきたのは、そのこだわりがあってこそ。彼は過去10年間の年間ポイントランキングで、コンストラクターズでは8回、ドライバーズでは7回チャンピオンとなり、グランプリではなんと115回も優勝している。いずれも、非の打ちどころのないマシンとメルセデスの看板ドライバー、ルイス・ハミルトンのおかげだ。

だが、そのメルセデスがもはや勝ち続けてはいない。チームは2022年、グランプリを1度しか制覇できず、年間ではなんとか3位につけたものの、23年にトップに返り咲くのは難しそうだ。現在、首位に最も近いのはオラクル・レッドブル・レーシングだ。21年にF1の資金ルールが見直され、支出制限つまりコストに上限が定められたことは、ウォルフの完璧主義的アプローチの足かせとなった。ミスから立ち直るチャンスが減ってしまったのだ。

コスト制限はレースの現場にとって最大の試練となっているが、競技を離れた経営面ではプラスの影響をもたらしている。メルセデスが最後にコンストラクターズ・タイトルをとった21年、チームはウォルフの下で最高となる売り上げ5億2900万ドル、金利・税金・償却前利益(EBIDTA)1億2800万ドルという結果を残した。メルセデスはまだ22年の数字を発表していないが、フォーブスの推定ではそれぞれ21年を約10%と30%上回る見通しだ。

これほどの売り上げを実現したことで、チームの価値も高まっている。フォーブスは19年にメルセデス・チームの価値を10億ドルとしたが、現在では少なくともその2倍に上ると見ている。ウォルフはチームの株式の33%を保有しており、大半は13年に推定5000万ドルで取得したもので、彼の総資産10億ドルの大部分を占める。

「金銭的成功と競技での成功のどちらを選ぶかと迫られたら、私はどんなときも必ず競技での成功を選びます」(ウォルフ)
トト・ウォルフが2 0 1 3年にメルセデスAMG・ペトロナスに加わって以降、チームは1 4年から2 0年まで、グランプリの 勝ち数でトップを守っていた。グラフは、主要なライバルであるオラクル・レッドブル・レーシングとスクーデリア・フ ェラーリとの勝ち数の比較。トップの勝ち数を誇るメルセデスはこの間、年間のドライバーズランキング、コンストラク ターズランキングでも常にトップだったが、コスト制限の設定以降は勝ち数を大きく減らした。

トト・ウォルフが2013年にメルセデスAMG・ペトロナスに加わって以降、チームは14年から20年まで、グランプリの勝ち数でトップを守っていた。グラフは、主要なライバルであるオラクル・レッドブル・レーシングとスクーデリア・フェラーリとの勝ち数の比較。トップの勝ち数を誇るメルセデスはこの間、年間のドライバーズランキング、コンストラクターズランキングでも常にトップだったが、コスト制限の設定以降は勝ち数を大きく減らした。


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文=ジャスティン・バーンバウム 翻訳=フォーブス ジャパン編集部

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