もちろんワインブームの消費の勢いは持続するものではなく、消費者は「量は減っても品質のより良いワイン」を飲んでいるというのが業界の合言葉となっていた。ボルドーのプルミエ・クリュやブルゴーニュのグラン・クリュ、カリフォルニアのカルトワインといった名だたるワインは、今後も生産本数すべてを売り切るだろう。しかし、たまにワインを飲む層と比較しても、こうした層の消費量は微々たるものだ。
酒類市場の調査会社インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・リサーチ(IWSR)によると、米国では新型コロナウイルス感染拡大にともなう消費低迷が2021年末に底を打ち、翌22年にはワイン人口が400万人増えた。だが同時にワイン消費量は2%減少した。減少幅はZ世代で最も顕著だ。月に1度でもワインを飲む人は2015年にはZ世代の40%に上ったが、2021年にはわずか25%だった。
ワイン愛好家にとっては選択肢が増え、価格も下がるのは朗報だが、需要と供給に加え天候にも左右されるワイン業界にとっては悩ましい問題だ。生産量を減らすにはブドウ畑を潰すかワインを廃棄するしかなく、需要が増えなければ生産コストが高くともワインに高値を付けることはできない。とはいえ、40年前にベビーブーマー世代が味わった「発見の興奮」を共有できない世代を相手に、世界規模で大変革を起こすのは不可能に思える。
ワインが健康に良いという主張はついぞ支持を得られなかった。1本10~15ドル(約1500~2200円)のプレミアムワインを飲めるだけの懐に余裕がある人々は、飲みすぎが許容されない現代社会で深酒をすることがなくなった。試飲が観光客に人気のナパ・バレーの高速道路沿いなどで、飲酒運転の取り締まりが厳しくなった影響もある。
アジアの膨大な人口がワイン愛飲家になるとの展望は、中国やロシアの大富豪が世界最高級のワインや蒸留酒を大量消費しているというニュースの中で生まれた空虚な夢物語にすぎなかった。習近平がこの消費者層を取り締まったことで、中国の14億人市場に外国産ワインを行き渡らせる構想は一掃された。
市場には、この先数十年にわたり誰もが十分に楽しめるほどたくさんの良質のワインがある。ワイン業界の苦境は、ワイン愛好家にとっては思わぬ幸運といえる。
(forbes.com 原文)