大好きになってやめられなくなった。売り子のやりがい
今年で18年目だという、児玉冷菓の人気売り子さんの1人、石垣のぶ子さん。きっかけは同級生の友達の誘いだったが、誰よりもハマってそのまま気がついたら続けていたという。
「その人は1年でやめたけど、私は1日やったら楽しくてやめられなくなって、この仕事が大好きになったのよ。バラ盛りは、きれいに盛るのが好きだったから、お花のようにやってたらお客さんから言われて、バラ盛りってなんだべな?ああ薔薇の花のこと言ってるのか!とね」
盛り付けは自己流だという。他の売り子の仲間もみんな工夫をしてやっているので、実は決まった形ではないそうだ。
「私のは、のぶ子だから“のぶりん盛り”なのよ。専務さん(勇雅さん)と相談してのぶりんの名前入り看板もつけてもらったの。のぶりん盛りお願いします、って。顔を覚えてくれる常連のお客さんがね、石垣さんじゃないと買わないよ、と言ってくれたりするのね。みんな喜んでくれるから、キレイに盛るのがもっと嬉しいのよ」
道端のパラソルの下での販売は、実は秋田でしか許されていない特殊な条件での営業方法だ。路上で食品を売るのに、人の手で盛り付けをする段階を挟むと「喫茶店営業」となり水道設備などが求められる。秋田県では「許可のいらない物品販売」の条例で許可を出し続けてきており、他県で全く同じ形での販売は難しいという。
「アイス業としては、72年間秋田県内でパラソル販売の専門でやってきましたが、全国での展開には各地保健所の許可などが必要で難しい。商品化すれば、この味を全国で扱ってもらえると考え3年前に小売向け商品を作りました。その結果、テレビや雑誌、新聞と言ったメディア、youtubeやSNSで、児玉冷菓のババヘラアイスという名前が広がってきて、確かな反応を感じることができるようになってきました」
今は観光と掛け合わせて、夏しか見られないこの風景を守っていきたいという勇雅さん。もちろん、その先の風景を作り出したい思いもある。
「この土地に生まれて、純粋に秋田が好きという前提があります。一度外に出させてもらって学ばせてもらったことを、この土地に返していけたらなと思っています。県外に出ていく人も多く人口減少も、あまり嬉しくない全国一位の称号を返上とまで行かなくても、秋田県や秋田に関係した人たちを、児玉冷菓のババヘラアイスを通して幸せにするお手伝いをしたい。ゆくゆくは全国のみならず世界中に、このパラソルとアイスのある風景や文化、喜びを伝えていきたいと本気で考えています」
パラソルの風景と共に、誰の手元にも届けられるように
コロナ禍でおうち時間が増えるタイミングに、勇雅さんは商品化したアイスをギフト化して、全国発送を行なった。「おためし児玉冷菓のババヘラアイスセット」や、バラ盛り完成形の「バラ盛りカップ」の商品は今もお中元やら母の日父の日に多く出るという。
「コロナ禍の時期に秋田に帰省できない人や、県外に住んでいる秋田出身の方からすごく反応がありました。お子さんのいるお家も、おうちでバラ盛りのアイスに挑戦してくれたり、個人やメディアの方々がyoutubeでやり方を紹介する動画もたくさんアップされています。児玉冷菓の公式では、バラ盛りは売り子の皆さんの工夫のものですし動画での紹介はしていません。お客さんも、見よう見まねでコーンを持ってヘラで盛るのが楽しいとも聞きますから」
秋田では児玉冷菓のババヘラアイスは夏のものという意識が強く、昔は冬には一切売れなかった。やってみるまでわからなかったことだが、パラソル販売以外の季節も小売の方ではクリスマス時期などの冬季に売れ始めた。氷菓で夏向きの商品ではあるが、今後冬でも売れるフレーバーも考えていきたいと、勢いよく話す勇雅さん。