「お客様の声が宝物」。1本の電話で、やるべきことがわかった
「取り急ぎ、アイスの作り方を引き継ごうという話だったのですが。自分がやらなくてはと思う1番のきっかけになったのが、会社で初めて自分が取った電話でした。それはクレームで…正確に言うと問い合わせだったのですが、内容は「児玉冷菓さんのババヘラアイスはどこで食べられるんですか」という問い合わせでした「どこにも売ってないよね」と伺いまして。最初意味がわからなくて、よくよく聞いてみたら、スーパーや道の駅、コンビニにも商品がなく、どこで買えるのかという内容でした。祖母が当時、児玉冷菓創業以来のこだわりとして、パラソルの下でしか児玉冷菓のババヘラアイスは売らないという方針を守っていたのです」
改めて勇雅さんが、届いていたメールやお客様の声をを見返してみると、思っている以上に数多くの問い合わせに気が付いた。ネットで売っていない、ギフト商品もない。道の駅もスーパーにもない。問い合わせの一件一件が、児玉冷菓のババヘラアイスを探してくれていた。うちのアイスが美味しいと言ってくれている人がこんなにいるなんて、どれほどありがたいことだろう。アパレルで販売の現場にも立ったからこそ、こういった声が宝物だとわかった。それをきっかけに、小売用の商品化を進め、この年に5種類ほどの商品を展開し始めた。
「その頃に父に、わざわざアイスを商品化して一体どこが取り扱うんだ?と言われて。その一言に私がカチンときまして、積極的に営業や商談会に参加することにしました。それでようやくスーパーや道の駅に取り扱っていただき始めました。そのほか、ECサイトでの通販やふるさと納税でも取り扱いをはじめ、調べた時にちゃんと全国どこからでも手に取れるように整えることを大急ぎで進めていった形になります」
児玉冷菓のDNAとして、「パラソルの下のアイスは秋田の夏の風物詩」であり守っていきたいのだと勇雅さんは改めて言う。今、道に立ってくれているババ(売り子)たちも歳をとるし、イベントや売り子さんが減ると外でパラソルを見るのが珍しい時代になってしまうかもしれない。でも短い秋田の夏に咲くパラソルたちが「児玉冷菓のババヘラアイス」を背負っている。
「夏にしかパラソル販売はやらないのですが。ババたちは、健康のためとかボケないためとか、生きがいだとか接客が楽しい、そんなことで続けてくれて。あとはコミュニケーションが好きとかアイスを盛るのが好きだとか、みんなそれなりの事情があって、体調を見ながら働いてくれているスタッフが多いんです。ババ(売り子)は偉大だなといつも感謝しています。何より、楽しくやってくれているのが、すごく嬉しいです。今日来てくれている売り子さんは、バラ盛りが特に上手なんですよ。」
石垣さんは、うちの看板娘です。そう言うと、勇雅さんは赤と黄色のパラソルの下でにこやかに微笑む石垣さんにアイスを頼んだ。