2023年7月、京都府与謝野町唯一の駅、京都丹後鉄道宮津線「与謝野駅」前に、ビール醸造所「TANGOYA BREWERY & PUBLIC HOUSE」がオープンした。関西学院大学4年生だった濱田祐太がこの郷里に、民間のまちづくり会社「ローカルフラッグ」を創業してちょうど4年。2020年から製造・販売するクラフトビール「ASOBI」をみんなで味わい集う場所を誕生させた。
「ここは小ロットで商品開発にチャレンジする拠点であり、町内で栽培するホップの収穫体験後に出来立てのビールを提供する観光の拠点。そして、パブの語源であるパブリックハウスとして、ビール片手に人がつながる交流拠点です。大阪市内から来られる方もいて、閑散としていた駅前が今、『目的地』になりつつあるのを感じます」
「地域」に目が向いたのは高校生のころ。ボランティアに参加したとき、廃れていく町をただ嘆いている大人たちに憤りを感じ、地元の活性化を志した。政治の道を考え、大学生のときに市議会議員事務所でインターンを経験。さらに1年間休学し、20に及ぶ自治体を訪ね、行政や地域活動を視察した。そこで気付いたのは、政治や行政の力だけでうまくいっている町はなく、リスクを取ってビジネスに取り組む人がいる地域ほど盛り上がっていることだった。「ビジネスで地域の課題を解決し、雇用を生み出していくプレイヤーがこれからもっと必要だと思ったときに、地元に帰って会社をやろうと決めました」
2019年7月に「ローカルフラッグ」を創業。与謝野町を含む丹後地域の自治体からの定住促進の受託事業や地元企業の研修事業などから始めたが、「地域を変えるには、若い人が帰ってきたいと思える産業が必要」と考え、2020年に地元の資源を活かしたビール事業をスタートさせた。
与謝野町では2015年からビアジャーナリストの藤原ヒロユキがホップ栽培を始めていた。大手ビール会社の契約栽培ではない、クラフトブルワリー向けの生産地として歩み始めていた。すべて手摘みで収穫する生の「与謝野ホップ」を使い、天橋立の内海である阿蘇海から打ち上がる牡蠣殻で、醸造に使う水の硬度を上げ、イギリスのエールビールに近づけた「ASOBI」を開発、販売を始めた。会社として目指す「経済と雇用、人材育成などの好循環を生みだす『持続可能な地域づくり』」への一歩を踏み出した。