UNDER 30

2023.09.25

田舎で挑戦する魅力を伝えるローカルベンチャーの旗手

濱田祐太

リスクを取って田舎で事業をやる人が少ないからこそ、挑戦する意味がある━━。大学4年生だった濱田祐太は、人口約2万人の郷里・京都府与謝野町で起業した。地元産の生ホップを使ったクラフトビール事業を柱に、人を呼び込み雇用を生む「まちづくり」に邁進する。次世代を担う30才未満を選出する「30 UNDER 30 JAPAN」のSCIENCE & TECHNOLOGY &LOCAL部門を受賞。会社名そのままに、地域の旗振り役として活躍するローカルベンチャーの旗手だ。


2023年7月、京都府与謝野町唯一の駅、京都丹後鉄道宮津線「与謝野駅」前に、ビール醸造所「TANGOYA BREWERY & PUBLIC HOUSE」がオープンした。関西学院大学4年生だった濱田祐太がこの郷里に、民間のまちづくり会社「ローカルフラッグ」を創業してちょうど4年。2020年から製造・販売するクラフトビール「ASOBI」をみんなで味わい集う場所を誕生させた。

「ここは小ロットで商品開発にチャレンジする拠点であり、町内で栽培するホップの収穫体験後に出来立てのビールを提供する観光の拠点。そして、パブの語源であるパブリックハウスとして、ビール片手に人がつながる交流拠点です。大阪市内から来られる方もいて、閑散としていた駅前が今、『目的地』になりつつあるのを感じます」

手摘みでホップを収穫する体験を通じて、地域住民と観光客との交流を生み出す。

手摘みでホップを収穫する体験を通じて、地域住民と観光客との交流を生み出す。


「地域」に目が向いたのは高校生のころ。ボランティアに参加したとき、廃れていく町をただ嘆いている大人たちに憤りを感じ、地元の活性化を志した。政治の道を考え、大学生のときに市議会議員事務所でインターンを経験。さらに1年間休学し、20に及ぶ自治体を訪ね、行政や地域活動を視察した。そこで気付いたのは、政治や行政の力だけでうまくいっている町はなく、リスクを取ってビジネスに取り組む人がいる地域ほど盛り上がっていることだった。「ビジネスで地域の課題を解決し、雇用を生み出していくプレイヤーがこれからもっと必要だと思ったときに、地元に帰って会社をやろうと決めました」

2019年7月に「ローカルフラッグ」を創業。与謝野町を含む丹後地域の自治体からの定住促進の受託事業や地元企業の研修事業などから始めたが、「地域を変えるには、若い人が帰ってきたいと思える産業が必要」と考え、2020年に地元の資源を活かしたビール事業をスタートさせた。

与謝野町では2015年からビアジャーナリストの藤原ヒロユキがホップ栽培を始めていた。大手ビール会社の契約栽培ではない、クラフトブルワリー向けの生産地として歩み始めていた。すべて手摘みで収穫する生の「与謝野ホップ」を使い、天橋立の内海である阿蘇海から打ち上がる牡蠣殻で、醸造に使う水の硬度を上げ、イギリスのエールビールに近づけた「ASOBI」を開発、販売を始めた。会社として目指す「経済と雇用、人材育成などの好循環を生みだす『持続可能な地域づくり』」への一歩を踏み出した。

水の硬度調整には、地元の阿蘇海で異常繁殖し、景観の悪化や悪臭など環境問題となっている牡蠣の殻を使う。

水の硬度調整には、地元の阿蘇海で異常繁殖し、景観の悪化や悪臭など環境問題となっている牡蠣の殻を使う。

世界を変えうる30歳未満にフォーカスする企画「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」も6年目。2023年はパワーアップし、120人を選出した。彼ら、彼女たちが自らの言葉で、過去と今、そして未来を語る。 
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文=斉藤泰生

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