国内

2023.09.22 11:45

「カーボンクレジット」で新興国参入のサグリ 人工衛星活用で市場開拓

なぜこのようなことが起きるのか。坪井は実例をあげて説明する。
 
「ある稲作農家は、メタンの発生量を抑えることができる水田の中干しをした。しかし中干し期間中に雨が降った。すると水田に水が残り、メタンが発生します。ただ現状では、農家が営農日誌などをもとに自己申告で紙の申請書類を作成し、認証機関に提出するので、実態に即した正確な申請がされていないケースが多いんです」

人工衛星で客観的な農地データを取得

クレジットに対する信用がなくなれば、企業側も購入をためらう。そこでサグリは、自社の衛星データを使いクレジットの信用を高め、市場を開拓できると考えた。
 
サグリは、人工衛星が地表面から反射される波長を取得し、農地の土壌分析を行う技術を持つ。それを応用し、農地に含まれる窒素や炭素の含有量を計測。化学肥料を削減すると一酸化二窒素が削減できるため、サグリは農家に対して余分な肥料を減らすようアドバイスする。人工衛星から水張りの状況や面積を把握することで、水田の中干し期間の延長のプロジェクトにも生かすことができる。
 
衛星データで取得したデータは、カーボンクレジット発行の証憑として認証機関に提出するのだ。
 
「客観情報をもとにしているので、信頼性が上がり、企業も安心してクレジットを購入することができます」
 
サグリのように衛星を使い農地状況のデータを取得する欧米企業もあるというが、アジアやアフリカにおいては「サグリの技術の優位性が高い」と坪井は考える。サグリは、これまで「AIポリゴン(農地の自動区画化)」「アクタバ(耕作放棄地を判定)」「デタバ(作物銘柄の見分け)」といったサービスを、国内外の自治体や農協に提供してきた。
 
「インド、タイなどを含むアジアやアフリカの農地は、日本と同じように、農地がとても小さい。サグリではそれらに合わせた技術を開発してきました。欧米の農地の多くは広大なので、それらをデータ化する技術は、僕らの展開する地域にはフィットしないんです。ここが欧米企業との差別化となり、アジアやアフリカで事業を拡大できると考えました」
 
海外での本格展開に向け、6月に新たな人材も引き入れた。アジアにおける新拠点シンガポールの事業責任者、坂本和樹だ。坂本は日用品メーカー「P&G」のマーケターとしてシンガポールに3年間駐在した経験を持ち、その後は国連やJICAで新興国の支援にあたっていた。
 
「サグリのようなインパクトスタートアップ(社会課題の解決と経済リターンの両立を目指す企業)への投資が増え、社会課題の解決に挑むプレイヤーが民間から出てきています。
 
まさにカーボンクレジット事業は、その流れのなかで生まれてきたものです。 概念は国際協力に近いですが、お金の出どころ(クレジットの買い手)が大企業。そういう意味では、国連やJICAの考えを理解し、P&Gでマーケティングをしていた経験が活きるのではないかと思っています」(坂本)


シンガポールの事業責任者、坂本和樹

坂本が挙げたインパクトスタートアップは、利益を生み出すことが難しい形態とも言われている。だがサグリは、先に紹介したアクタバやデタバを主軸に、2023年5月期には売り上げ3億円を記録し、通期での黒字化も達成している。
 
これまで培ってきた衛星データによる独自技術で、新興国のカーボンクレジット市場を切り拓く。
SEE
ALSO

30U30

かつての宇宙少年はいま「宇宙 x 農業」で子どもたちの挑戦を後押しする

文=露原直人

ForbesBrandVoice

人気記事