2022年1月にリリースすると、駅や病院、大学、高層マンションなどに次々と導入が決まった。システムは警備員不足を補ったり、迅速な対応を可能にしたりしている。
代表取締役CEOの木村大介は「当社のAIは警備だけでなくマーケティングなどにも横展開できる」と話す。同社の独自技術とはどのようなものなのだろうか。
電車内の事件を機にサービスを開始
アジラは、2015年に木村とベトナム人のグエン・タイン・ハイ(現取締役 Asilla Vietnam CEO)が創業した。2人はエンジニアで、創業期から「行動認識AI」の開発を進めてきた。ただ、製品として実用化するまでに数年間かかったため、企業からのAIサービス開発の受託や文字認識技術の提供で収益を上げてきた。その後、同社が開発した文字認識技術を大手企業へ売却。そこで得た売却益を行動認識AIの開発に投入した。
行動認識AIをどういった用途に使うか、具体的な活用は定めていなかったが、2021年にアジラの方向性を決定づける出来事が起きる。
同年8月、小田急線電車内で乗客3人が刺される事件が発生し、さらに10月には京王線電車内で乗客がナイフで刺され、車両が燃やされる事件が起きたのだ。
木村は次のように振り返る。
「実は、うちの娘が学校に通うのに事件の起きた小田急線を使っていたんです。家族に影響があるところで命に関わる事件が起きたのは自分にとってインパクトが大きかった。そこで、すでにあるAI技術を使った警備システムに舵を切りました。事件がなければ、いまは違った形のサービスをやっていたかもしれません」
AI同士が対話して行動を認識
ショッキングな事件を機に生まれたAI警備システムは、他には類を見ないユニークな製品だ。検知できるのは、ケンカや暴力行為、侵入禁止区域への踏入れ、長時間のたむろ、ふらつきなど。実は、これらを認識する裏では、AI同士が対話しているのだという。アジラの行動認識AIを構成するのは、「姿勢推定」「物体検出」「行動推定」の3つだ。それぞれ以下のような働きをする。
姿勢推定:膝や肘、肩などの関節点の位置関係から、体の向きや形を推定
物体検出:画像の中から物体の位置や種類、個数を認識
行動推定:連続的な姿勢推定により行動を検知
それぞれのAIが瞬間的に対話を行い、より可能性が高い行動を決定する。検知スピードは問題行動が起きてからわずか1秒という早さだ。上記で挙げた行動を認識する「違和感検知」の技術は特許を取得している。