国内

2023.09.05 16:30

首相銃撃や電車テロで需要増 「警備AI」が暴力行為やふらつきを検知

アジラ代表取締役CEOの木村大介(撮影=yOU)

「映像や画像解析で最も難しいのは『環境差異』をクリアすることです。Aという施設では解析ができるのに、明るさや広さが異なるB施設では使えない。こういうケースは結構あります。
 
世界で映像・画像解析の製品があまり出てこないのは、この環境差異を超えるのが難しいからです。アジラはAIが対話することで、どんな環境でも自律的にAIがフィットします。これが弊社の独自技術です」

それを証明するかのように国際的な表彰も受けている。今年6月に行われた、世界のAIトップ企業やテクノロジー、製品、サービスを表彰するAI Breakthrough Awardsにて、「Computer Vision Innovation Award」を受賞した。これは日本企業初のことで、OpenAIやMicrosoftなども同時に受賞している。また、アジラの具体的な精度は非開示だが、導入している施設からの解約はいまのところない。

要人襲撃で需要が加速

需要は、ここ1年ほどで起きた要人への襲撃事件などでも高まっている。2022年7月の安倍晋三元首相銃撃事件や、今年4月に起きた岸田文雄首相の演説会場への爆発物投げ込み事件などを機に引き合いが増え、公的機関からの問い合わせもあるという。
 
アジラを導入している東急セキュリティでは、2022年8月から実証実験を開始。急病人や客同士のトラブルの早期発見を目的にしており、検知されるとすぐに駅員室に知らせが入る。また立命館大大阪いばらきキャンパスでも今年4月から利用を始めており、大学内の監視カメラに挙動不審な人物が映ると自動で検知し、中央監視室のモニターで警備員に伝達される。

その一方で、アジラの社内ではこうした需要に応えるための人員がまだ不足しており、アジラ側でのシステム設定ミスによる誤作動が発生するケースも出ている。
 
木村は「企画開発のゼネラルマネージャーを新たに迎え入れました。社内のチームを整頓し、ミスの起こらない体制を構築しています」と対応を急いでいる。

高度なマーケティング分析にも展開

人命を救う可能性をもつアジラだが、先ほど説明した環境差異に対する優位性は「警備以外にも横展開していけるものだ」と木村は胸を張る。
 
具体的には、歩き方による骨粗相症の判定、ゴルフや野球のスイング分析、工場での熟練工と新人の動きの比較などさまざまな用途が想定されている。なかでも木村が、警備システムの次に展開を見据えているのが、マーケティングだ。
 
人数の検知による混雑分析はもちろんだが、さらに高度なマーケティングを実現させようとしている。それが「マルチカメラトラッキング」による分析だ。
 
マルチカメラトラッキングとは、商業施設や街中に設置した複数のカメラで、同一人物を追跡する技術のことをいう。この技術を使うことで、例えばユニクロを訪れた人物が付近のニトリに来店する確率を算出することができたり、ユニクロのAコーナーを見た客がニトリのBコーナーに行く相関性を計測したりすることも可能になるということだ。
 
まだ実証実験を終えた段階で実用化はこれからだが、商業施設で導入を検討している顧客からは「現実世界のGoogleアナリティクスだ」と期待の声が挙がっているという。
 
「まだまだやりたいことは山ほどあります」と木村は締めくくった。

文=露原直人

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