ソーシャルインパクト部門を受賞した坪井俊輔は、衛星データを活用した農業支援で注目される。なぜ宇宙と農業なのか。それは、リアルに体験した事実が子どもの頃の夢と結びついた、運命にも似た必然だった。
ロケットや人工衛星、宇宙エレベーター。宇宙に憧れた少年は、一途に宇宙の研究者を夢見て大学に進学した。
子どもの頃に描いた夢を大人になるにつれて忘れてしまう人は少なくない。坪井俊輔自身も、夢を素直に語れない風潮に押し潰されそうになったことがあるという。「好きなものをただ追いかけているだけで終わっていいのだろうか」。坪井は自ら歩んできた道が子どもたちの発想や可能性を広げると考え、2016年、大学在学中に「うちゅう」を起業する。ワークショップを通じて宇宙との接点を提供する教育の会社だ。
うちゅうの関連で訪れた、ルワンダ。目を輝かせ、宇宙の話に聞き入る子どもたちはワークショップを終えると家の手伝い(農業)に戻らなければならなかった。子どもは生活を担う重要な働き手なのだ。本当の夢は叶わないことに気が付いている子どもたちと出会い、やるせなさを感じた。
「このような子たちは世界に大勢いる。私の活動は子どもたちに、ただ夢を与えているだけなのか?」
途上国の農業を支援するのは自分の使命
悶々とし日本に戻った坪井に、人工衛星による地球観測データの一部が無償公開されるというニュースが舞い込んできた。
うまく活用すれば、日本のみならず途上国の農業の現場の支援につながり、子どもたちは仕事の「次」を選択できるのではないかと考えた。米国や欧州では衛星データを用いた農家向けのサービス開発が進んでいたが、この技術は小規模な農地が多いアフリカには転用できない。アフリカと農地の規模感が近い日本が、現地の農地を支える技術を生み出すべきだと感じた。
当時は、衛星データが急速に注目を始めていた時期。国内においても誰かがすぐに手を着けるだろうと思い、坪井は目の前の教育事業に専念していたが、そういった事業者は現れないまま月日が流れた。自分にはうちゅうでの事業がある。しかし、これを成すのは自分の使命だと感じた坪井は、衛星データを農地の管理・開発に活用する企業「サグリ」を立ち上げた。
とはいえ、農業については全くの素人。作物の生育状況や圃場の土壌解析ができるアプリケーションの開発は簡単なことではなかった。
「初期のアプリケーションはおもちゃと揶揄されました(笑)」
日本の農家に現場を学びながらも失敗を繰り返した。
原点を追い求めて
開発に息づまっていたとき、参加していたアクセラレーションプログラムで「なぜ海外に行かないのか」と問われ、はっとした。サグリの原点はルワンダの子どもたちとの出会いだ。やりたかった途上国の農業支援に取り掛からなくてはならない。市場規模などを勘案し、坪井はまず、インド進出を決めた。