30U30

2022.09.11 16:30

かつての宇宙少年はいま「宇宙 x 農業」で子どもたちの挑戦を後押しする


一方、社内のメンバーはすでに着手している日本での事業に熱を入れていた。「なぜインドなのか」「インドを選ぶのは坪井のエゴじゃないか」と厳しい意見が飛んだ。ついには、方向性の違いからメンバーが離れていく事態に陥った。

「僕がメンバーに日本で事業を広げていく夢を見せてしまったから、その夢に乗ってきてくれたメンバーを裏切ってしまうかたちになりました。自分の経営力の無さを痛感しました」

メンバーの離脱という試練を乗り越え、念願のインド拠点を設立したもつかの間、今度は未曾有のパンデミックがサグリを襲った。良いスタートを切れたように思えたインドでの事業は縮小せざるを得なかった。コロナ禍で海外に足を運べなかった間に、国内事業を成長させ、現在、サグリは国内での売上が中心となっている。

「世界に20億人いる農家さんのうち、たったの十数万人にしか、まだサービスを届けられていないという悔しさを感じています」

ステークホルダーからは一定の評価を得られているものの、途上国の農家にサービスを提供したいという思いは変わらない。

「経営者として全ての責任を受け止めなければいけないというなかで、心からやりたいと思えていない事業、あるいはサービスを届けたい人たちの姿が見えていないとポキッと折れてしまうと思うんです。いろんな大失敗をたくさん起こしながらも、原点を追い求めることで成長してきたところはやっぱりあります」
 

何を成し遂げて死んでいきたいかを考える


熱く自分の使命を追い続ける坪井。彼を後押しするのは、尊敬してやまない孫正義の存在と言葉だった。
 
「志を持たないとあっという間に人生は終わってしまう──孫さんの多くの言葉が私の頭の中にあります。限られた時間の中で、何に時間を使って何を成し遂げるのか。どう課題を解決していくのかが重要なんです。その結果、誰かにありがとうと言ってもらえるなら、僕は満足して“死ねる”かなと思うんです」
 
軌道に乗ったサグリは、拠点とする日本から今もなお世界を視野に入れている。20億人を超えると言われる農家とその子どもたちが坪井を待っている。

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つぼい・しゅんすけ◎1994年生まれ。横浜国立大学理工学部機械工学・材料系学科卒業。大学3年時に宇宙教育ベンチャー「うちゅう」を創業。2018年に「サグリ」を起業する。

文=井上榛香 写真=帆足宗洋(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN No.098 2022年10月号(2022/8/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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