そうは言っても、酒蔵を立ち上げるには数千万円の資金が必要だ。そこで、「お金はないけど、どうしても日本酒やクラフトサケを造りたい!」という熱い想いを持つ者の希望の星となりそうなのが、「ファントムブリュワリー」だ。ファントムとは幻影や亡霊、幻の意味。自前の設備を持たずに他の醸造所に委託するブリュワリー(醸造所)を指す。
他の醸造所にレシピを渡して完全委託するスタイルと、醸造所を間借りして酒造りをさせてもらうスタイルがあり、クラフトビールの世界では海外を中心にポピュラーとなっている。日本でもクラフトビールのファントムブリュワリーは少しずつ増えてきた。
一方で、日本酒やクラフトサケのファントムブリュワリーはまだ珍しい。
2022年からファントムブリュワリー「ぷくぷく醸造」を立ち上げて、日本酒やクラフトサケを造っている立川哲之(たちかわ・てつゆき)は、その先駆者の一人だ。
旅をしながらレベルアップ
22年8月に最初の酒をリリースしてからの1年間で、日本酒2種、クラフトサケ10種を造ってきた。立川が考えるファントムブリュワリーの魅力は、「いろいろな蔵で日本酒やクラフトサケが造れるからこそ、経験値が比較できないぐらい上がっていく」こと。経験値が上がれば、付随して技術も上がっていく。まるで旅をしながらレベルアップしていく冒険者のようだ。清酒製造免許がなくても、日本酒を造ることだってできる。「同じ設備で同じ酒を作る場合は、 ある程度の経験を積んでいくと品質もどんどん良くしていけると思いますけど、毎回違う設備で、毎回クオリティを高くしていくというのは、かなりハードル高い。なので、自分にとってはすごく経験値が上がるし、どんなにイレギュラーが起きても美味しいお酒を作っていけることに繋がっていくと思う。半分修行のつもりでファントムをやっています」(立川)
2023年から技術顧問を務める東京・浅草「木花之醸造所」前に立つ立川哲之。京都芸術大学非常勤講師(クラフトサケ学)でもある。