経営・戦略

2023.09.13 17:00

IRのプロが考える「人的資本開示」の理想像 起点をKGIに置くべし

Miha Creative / Shutterstock

まず大枠を考えてみましょう。
 
【人材戦略】
事業:越境EC
中期目標:ターゲット国・地域での売上拡大
人材戦略と目標:ターゲット国・地域の事情に詳しいマーケティング人材を増員
 
これにナラティブ(ストーリー)を加えると、こんな説明ができます。
 
人材戦略と目標の達成に必要なのは、人材の量と質をどうやって確保し、彼ら彼女らをいかにして活躍させるかを考えることです。必要な人材を確保するには、日本人の男性だけでは足りず、女性や外国人も積極的に採用しなければなりません。
 
次に、これらの非男性、非日本人を活躍させるにはどうしたらよいでしょうか。マーケティングスキルや語学力の不足を補うための研修投資や、外国人社員のためのサポート策、働きやすい職場環境の整備が必要です。また、急成長するスタートアップの中でミッションを共有し浸透させることも大切です。
 
具体的な人材育成方針と社内環境整備方針は次のとおりです。
 
【人材育成方針】
・ターゲット国・地域の専門知識を持つ人材の積極的な採用と語学研修の支援
・異文化マーケティングに関する教育機会の強化
 
【社内環境整備方針】
・ミッション、ビジョン、バリューズ(MVV)の浸透
・個別面談(1on1)の実施
・従業員エンゲージメント調査の実施
 
そのうえで追うべきKPIの指標としては、以下のようなものが考えられます。
 
【指標】
・外国人社員の人数、外国人・女性管理職の割合
・属性別(性別、国籍、年齢、経験年数)の従業員エンゲージメントスコア
・属性別の離職率
 
重要なのは、経営の目標であるKGI(Key Goal Indicator)が「ターゲット国・地域での売上拡大」であるという点です。多様な人材を取り入れることは、この目標を達成するための重要な要素と言えるでしょう。このKGIを起点にして掘り下げていくことが、理想的な人的資本開示です。
 
ダイバーシティは日本社会の重要なテーマであり、女性や外国人役員・管理職の増加が企業活性化や企業価値向上に寄与する実例を多く見てきました。しかし、女性管理職の割合を上げること自体が経営戦略ではなく、その裏にあるナラティブ(ストーリー)が重要です。なぜ多様性が必要なのか、どのように企業文化の変革や企業価値の創造につながるのか、経営陣が考え、対外的に伝えることが求められています。
 
これにより、投資家だけでなく、さまざまなステークホルダーから共感を得て、本当の価値創造に寄与できるでしょう。

文=市川祐子 編集=露原直人

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