IRのプロが考える「人的資本開示」の理想像 起点をKGIに置くべし

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最近、あるスタートアップの役員から興味深い質問を受けました。その内容は、「我々の会社は、多くの外国人社員と女性社員を抱えています。これは株式市場からの評価の観点でプラスとなりえるでしょうか? もっとアピールすべきでしょうか?」というものです。
 
それに対して「外国人や女性の割合や数だけでは評価ができない」と答えると戸惑った様子でした。

人的資本開示のワナ

今年の6月から、有価証券報告書(有報)で、人的資本関連の指標・目標の開示が必要となり、私も150社ほどの企業開示を読みました。その役員にも、「人材の多様性指標のみを目標と掲げている企業が多い」という話をしたところ何を書くべきか、頭を悩ませているという相談が出てきたわけです。
 
会社の事業内容は越境EC。越境ECは日本の商品を海外に向けてオンライン販売する事業で、言語だけでなく物流や決済などのインフラ、商習慣、規制などの国や地域ごとの違いに対応する知識と経験が必要です。こうした専門知識を持つ外国籍や外国での生活経験のある人材は、事業の成長に不可欠な存在なのだそうです。
 
私はこう答えました。
 
「では、『ターゲット国・地域の事情に詳しいマーケティング人材の増員』が目標ですね?」
 
するとその役員は驚いた様子で「たしかにそう考えていましたが、有報でそこまで具体的な目標を開示することは思いつきませんでした」とのこと。
 
私は「もちろん大丈夫です。開示の項目として適切ですし、これを機に考え直してみてはいかがですか?」と提案しました。
 
この方が陥ったのは人的資本「開示」の罠。開示指標を起点に考える「開示のための開示」になってしまっています。多くの企業でも、有報で目標と掲げた人材の多様性がどのように経営戦略と関連するのか説明がないのが残念なところです。

経営戦略を起点に考える

人的資本「経営」とは、経営戦略や事業方針を起点に、必要な人材のスキルや質、人数をどのように増やし、どう配置するかを計画することです。越境EC事業の例を用いて、人的資本経営と人材戦略、開示の関係を考えてみると、次のようなステップになります。
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文=市川祐子 編集=露原直人

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