国内

2023.09.14

「リサン」を目指す女子学生

殺人的な暑さに辟易する盛夏の炎天下で、在日30年近くになる梁さんが嘆息した。「まるで故郷の西安郊外の真夏のようです。でもこの暑さは日本医学の部熱に通じますよ」。

都内の著名中学校に通う梁さんの長女は抜群の成績で、工学部進学を希望している。梁さん自身、北京大学の理工系出身の優秀なエンジニアだ。この日、梁さんが娘の進路面接に臨んだところ、担任の先生から「お嬢さんの成績は断トツです。現役でリサンに行けます。頑張ってください」と言われたそうだ。リサンとは東京大学理科三類、要は東大医学部である。

「日本では医学部が特別扱いなんですねえ。中国でも医師は尊敬されますが、もっと人気が高い理工系もある。日本、変だね」

医師の大切さはコロナ禍でも身に染みた。親友の病院長には常々、家族ともどもお世話になっていて手術や緊急時にはありがたさを痛感してきた。命と健康を守ってくれるかけがえのない存在である。医学部の重要性に異論を唱える人はいないだろう。

この医学部を狙う「できる」女子が増えている。今や全国の医学部の女性比率は37%、半数以上が女子学生という共学の大学も出てきた。難関中の難関、100人足らずしか合格しないリサンでも女子の躍進が目覚ましい。今年の合格者数は97人、内24人が女子である。ビジネス界の女性役員比率をはるかにしのぐ。これ自体は結構なことだと思う。

だが、日本の医師数は着実に増加し、1000人当たり2.4人、OECDの平均は下回るものの、厚生労働省によれば10年後には十分な水準に達するそうだ。

海外から見ると、こうしたなかでの極端なまでの医学部熱は、やはり常軌を逸しているのだろう。呆れるのは梁さんだけではない。知人の米国人技術者や英国人医師も「日本の七不思議のひとつだねえ」と皮肉っぽい笑みを浮かべる。

医学部も広義の理系だが、悩ましいのは狭義の理工系女子学生の少なさだ。工学部の女性比率は16%に過ぎず、ITに直結する電気通信工学は10%を切っている。理学部でも物理学は14%弱である。他方で、いわゆる文系の文学では70%、社会学は55%を女性が占める。ちなみに令和4年度の全学生の男女比率は男54%、女46%だ。
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文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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