繰り返すが、医師は立派な職業であり、優秀な女子の多くが医学部を目指すことは理解できる。職業選択の自由もある。だが、これからの日本にとって、理工系の重要性は医学分野以上に増すばかりではないか。政府も理工系教科に大きくかじを切っている。
理工系学部・大学院支援のために、国は3000億円の基金を創設した。国際卓越研究大学支援の10兆円ファンドも稼働し始めた。いずれも日本の理工系のすそ野拡大と研究力のレベルアップとがその眼目である。こうした戦略的な取り組みにこそ、女性を積極的に活用すべきである。
周知のように、産業界では女性の比重アップに一段と注力している。政府は、2030年には女性の役員比率を30%以上にせよ、とげきを飛ばしている。
理工系の女子比率に同様の数値目標を示しても違和感はないと思う。そのためには、理工系の女子学生を増加させた大学への優遇措置や彼らへの経済負担軽減策などを講じてもよい。
何よりも、親の意識や学校の意識を、理工系の女子に対して前向きのものに変えていってほしい。「理工系は男の子、女の子は文系。ただしできる女の子はお医者様」などという意識は昭和の遺物である。件の梁さんが顔をほころばせる。「娘が東大メタバース工学部のジュニア講座にはまっています。とても楽しいそうです。リーダー格の高校生は女子です」。そして続ける。「彼女も中国人なんです」
理工系分野で女性たちのグローバル競争は、すでに中高生時代から始まっている。
川村雄介◎一般社団法人グローカル政策研究所代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。