欧州

2023.09.11 12:30

ロシア軍の「水浸し」退却術、乗り越えるには架橋戦車がもっと必要

正面突破はうまくいかないことを手ひどい経験を通じて学んだウクライナ軍4個旅団は戦術を変え、ノボダリウカ解放後は東のリウノピリに向けて進軍する。消耗した両機械化旅団は後方にとどまり、戦車を数台借り受けた領土旅団の歩兵部隊が陽動し、もう一度陽動し、それからロシア軍部隊を側面攻撃した。

ウクライナ側の勝利は、ロシア側にとってたんなる敗北よりも悪い「潰走」になる可能性もあった。しかし、ウクライナ軍部隊の前に障害が立ちふさがる。リウノピリの東側を南北に流れる小さな川だ。「ロシア軍部隊は集落の背後にある水の障害を越えて撤退し、いくつかの農業用ダムを爆破して一帯を水浸しにした」と、ワトリングとレイノルズは書いている。

ウクライナ側から見て、氾濫したエリアの対岸に、ロシア軍部隊は対戦車ミサイルを配備した。ウクライナ軍部隊は、ミサイルにひるまず水の要塞を強行突破することも考えたかもしれないが、それには決定的な装備が不足していた。「障害物を乗り越える車両が1両しかなかったため、ウクライナ軍部隊は進撃を止めて成果を固めるしかなかった」と報告書は解説している。

リウノピリ周辺に展開していたウクライナ軍の4個旅団のもとに、架橋戦車がたった1両しかなかったのは驚くに当たらない。ウクライナの地上軍には少なくとも72個の旅団があるが、軍全体が保有する架橋戦車は旧ソ連時代のMTU-20を含めて70数両程度、ほかに非装甲の架橋車両が数十両といったところとみられるからだ。割合で言えば1個旅団につき架橋戦車1両前後となるが、実際の配分は偏っているだろう。

架橋戦車の不足のために、ウクライナ軍によるリウノピリ奪還は遅れることになった。この事実は支援国にとって、ウクライナに必要なのは戦車や戦闘車両、戦闘機だけではないということを思い出させたはずだ。架橋戦車は戦車や戦闘機に比べれば地味な装備だが、ウクライナ軍はこれも必要としているし、もっと言えば大量に必要としているのだ。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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