アジア

2023.09.07 10:30

インドの国名が「バーラト」に? G20の招待状表記で物議

インドのナレンドラ・モディ首相(Saikat Paul / Shutterstock.com)

インドのナレンドラ・モディ首相(Saikat Paul / Shutterstock.com)

インドで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議を控え、ドラウパディ・ムルム大統領から送られた晩餐会の招待状に、従来の「インド大統領」ではなく「バーラト大統領」と表記されていたことがわかり、国内で政治的な論争が起きている。バーラトはヒンディー語でのインドの呼称。野党側は、ナレンドラ・モディ首相の与党インド人民党(BJP)がナショナル・アイデンティーを政治化しようとしていると反発している。
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発端は4日、首都ニューデリーで9〜10日に開催されるG20首脳会議の参加者に大統領府から送られた招待状が、ソーシャルメディアで共有されたことだった。国名の表記が「バーラト」と、慣例と違うことに一部の野党政治家が疑問を呈した。

インドのいくつかの現地語では、インドはバーラトや「ヒンドゥスタン」と呼ばれ、バーラトは憲法でも「インディア」と並んで正式な国名として認められている。ただ、英語の公式文書ではインディアが使われるのが一般的だ。

今回の表記変更をきっかけに地元メディアでは、モディ政権は国名をインドからバーラトへ正式に変更する決議を今月の議会会期で押し通すつもりなのではないかという臆測が浮上した。BJPの議員は野党側が流したうわさだと打ち消している。
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野党側からは、2024年の総選挙に向けて国民会議派など複数の野党が統一勢力「INDIA」(インディア、Indian National Developmental Inclusive Alliance=インド全国開発包括連合=の頭字語)を結成したことに対抗する政治的な思惑があるとして、モディ政権を非難する声が上がった。

野党議員のシャシ・タルールは「インドを『バーラト』と呼ぶことに憲法上異論はないが、何世紀もかけて築き上げられ、計り知れないブランド価値をもつ『インド』を完全に捨て去るほど、政府は愚かではないと望みたい」とX(旧ツイッター)に投稿している。

一方、BJPの一部党員や右派のヒンドゥーナショナリストの何人かは正式な国名変更への支持を表明した。支持者たちは、インドという呼称は英国の植民地時代の名残だという誤った説を唱え、変更の必要性を訴えている。

ヒンズー至上主義の極右ナショナリスト団体でBJPの支持母体とされる民族義勇団(RSS)はかねて、インドという呼称を植民地支配の過去に、バーラトという呼称をインドの古代の歴史に結びつける説を声高に主張してきた。だが歴史家は、インドという名称は世界最古の文明のひとつを生んだインダス川と関係があり、数千年前にさかのぼるとしてこうした説を否定している。

改名すればパキスタンが「インド」名乗る?

仮にモディ政権がインドの国名を正式にバーラトに変更すれば、パキスタンがインドという国名を主張する可能性があるとの未確認情報も報じられている。

歴史家ジョン・キーの著書「India: A History」(未邦訳)によると、パキスタンの建国の父ムハンマド・アリー・ジンナーは、1947年に宗教上の線引きでインドとパキスタンが分離独立することになった際、ヒンドゥー教徒が大多数を占める国側がインドという国名を保持すると知り、「激怒」したという。

ジンナーやパキスタンの多くのナショナリストは、インドという名称はインド亜大陸の文明と古くから結びついているため、そうすればインド側に亜大陸での「優越性」や、自国側よりも高い正統性が与えられると危惧したとされる。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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