経済・社会

2023.09.08 07:00

不信感も気負いも消えた 日韓・空のホットラインが育てた友情

Photo by Chip Somodevilla/Getty Images

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8月18日に開かれた日米韓首脳会談の成果のひとつは、3カ国間のホットライン機能の強化だった。様々なレベルでの対話を増やし、より強固な関係を築くという。ホットラインを簡単に言い換えれば、「アポなしの直電」ということになるだろうか。第2次世界大戦中にルーズベルト米大統領とチャーチル英首相が、それこそダイヤルのない、受話器を持ち上げればそのままつながる電話を使って協議したのが、ホットラインの始まりだと言われる。

ホットラインの果たす最も重要な役割とは何だろうか。陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎元陸将は「緊急時に、いち早く誤解を解くことでしょう」と語る。「緊張状態にある相手国との間で、攻撃なのか偶発的な事故なのかわからない問題が発生したとき、故意か事故かを確認する必要があるからです」。日本と韓国は軍事的な敵対関係にはないが、防衛交流は限られ、たびたび政治的な緊張状態に置かれてきた。

実は自衛隊と韓国軍の間ではすでに高く評価されてきたホットラインが存在する。1997年、航空自衛隊春日防空指令所(福岡県)と韓国空軍中央防空統制所(京畿道烏山)に設置された専用回線(ホットライン)だ。松村氏によれば1990年代、空自と韓国空軍はソ連(ロシア)軍の航空機に対し、それぞれが戦闘機を緊急発進(スクランブル)させるなど、独自の対領空侵犯措置を取っていた。しかし、日本と韓国は近接しているため、同じロシア軍機に対して、日韓が同時にスクランブルをかけるケースが発生する。松村氏は「例えば、自衛隊機がスクランブル発進して北から南に向けてロシア機と併走するように南下してくると、韓国軍には空自機とロシア軍機の区別がつかないわけです」と語る。

空自と韓国空軍のホットライン開設に関与した高田克樹元陸上総隊司令官によれば、当初、日韓両政府内にホットライン設置に消極的な声が少なくなかったという。高田氏は「日本には(韓国による一方的な取り決めで多くの日本漁船を拿捕した)李承晩ラインの記憶が、韓国には日本に統治された時代の記憶がそれぞれありました。お互いに、なぜ日本(韓国)に協力しなければいけないのか、というプライドや気負いがあったようです」と語る。日韓の制服組が先頭に立ち、政治家や官僚を説得する形でホットライン開設が決まったという。

開設後、空自と韓国空軍は、正体不明の飛行物体に出くわすたびに、お互いのホットラインで確認を取り合う仲になった。韓国軍と自衛隊はお互いに防衛駐在官(駐在武官)を交換しているが、最も仲が良いのが空自と韓国空軍だと言われる。
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文=牧野愛博

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