「生成AIで何かビジネスを作ってみて」と上層部が丸投げし、成果が出ないまま人件費がかさむ、ゆるやかなPoC貧乏が頻発することが考えられます。
さらに生成AIには生み出すコンテンツの信頼性と偽造の問題があります。生成AIは、テキスト、画像、音声などの多様なコンテンツを作成できる能力を持っています。これは創造性や生産性の向上にとって大きな潜在能力を秘めていますが、同時に虚偽の情報や偽造されたコンテンツを大量に生み出す可能性もあります。
これにより、情報の信頼性や真実性が低下し、社会的な混乱や誤解が生じる可能性が懸念されています。
例えば、生成AIを使用して作成された文章が本物のニュース記事のように見える場合、その情報の正確性を確認することが難しくなります。偽造された映像や音声によってある人物の発言を偽造することも可能となり、社会的に影響を及ぼす可能性があります。
課題なきAIには取り組まない
これらのリスクを回避するためには何が必要でしょうか。大きく3つあると考えます。まず間違いなく言えることは、課題なきAIには取り組まないということです。ディープラーニングのときに起きていた「とりあえず部署作ったけど何をするかわからない」現象は、AIの導入が目的となっていたからです。生成AIでも同じで、何のために、何を解決するために導入するのかを考えてから取り組みましょう。
2つ目は、コンテンツの検証の仕組みを整えることです。
顧客や利用者に対し、AIの動作原理や出力過程を説明できる仕組みの開発が重要となってきます。同時に、生成されたコンテンツを検証するためのツールや手法も必要となります。真偽判断を支援するための技術的な手段を提供することで、偽造コンテンツの拡散を抑制することができます。
法規制は往々にして後から追いついてくるため、自社内でできる信頼性の確保には早めに取り組んでおきましょう。
最後は、人材への対応です。2023年8月、経済産業省が「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」 を発表し、デジタルスキル標準を改定しました。
経済産業省 “生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方”
従来のスキルが必要なことはもちろん、生成AIをうまく使う力も求められています。上で述べた目的・課題を設定することや生成AI特有の問題に対処することは、ただ生成AIを使うこととは違うスキルが必要となってきます。
AIにできることとできないことを理解し、ビジネスサイドとエンジニアをつなぎながら素早くPDCAを回せるような人材を早急に確保したいところです。
人材に関してはもう一つ考えるべきことがあります。AIに代替される仕事について理解し、そこで仕事をしている人材配置を考えることです。
代替されにくい、人間らしいスキル(感情理解、創造性、倫理的判断など)を伸ばし、AIとの相補関係を持つことや、リスキリングし新たな職種や役割に就くことなど、仕事と労働市場の変化への対応も考慮しなければなりません。
生成AIブームはまだ始まったばかりで、今後も発展の余地は大きいでしょう。安易に飛びつきよくわからないまま失敗する前に、戦略を立てることを考えてみてはいかがでしょうか。
大庭清準(おおば・きよとし)◎SHIFTにおいて、業務基幹システムの品質保証に携わる。キカガクにて、社内PMOとしてバックオフィス全般やサービスの立ち上げサポートを担当した後、講師として社会人向けのAI、データサイエンスに関わるセミナーを企画立案、登壇まで行う。登壇実績は150件以上。2023年INDUSTRIAL-Xに参画。