サイエンス

2023.09.09 13:00

混同されがちな「サディスト」と「サイコパス」の心理学的違い

安井克至

shutterstock.com

自分を心理的に警戒させる一連の人格的特徴を持った人を表現するには、ほとんどの人にとって「悪人」という言葉で十分だ。しかし筆者を含む心理学者にとっては、それは出発点に過ぎない。

「ナルシシスト」や「マキャベリスト」「ソシオパス」といった用語は、社会的に危険な人格タイプを定義するために人格心理学者が生み出したものだ。

中でも、大衆向けの非科学的な記事などでしばしば混同される邪悪な人格に「サディスト(加虐性愛者)」と「サイコパス(精神病質者)」がある。

学術誌European Journal of Psychological Assessmentに最近掲載された論文では、この2つを明確に区別している。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のデルロイ・ポールス率いる研究チームはこう書いている。

「サディズムの特徴的な要素は、残酷な行動の報酬価値にあるという点で、合意が形成されつつある。サイコパスが他人の苦しみに無関心であるのに対し、サディストはそれに魅力を感じる。前者は残酷さを道具的価値のために利用するのに対し、後者はその本質的報酬に価値を見出す」

論文ではさらに、次の説明がなされている。

・サイコパスは、衝動的で怒りっぽく、恐れを知らない傾向がある
・サイコパスは、生まれつき恐怖心が弱く、報復の可能性を気にしない
・サディストは、報酬が保持でき、報復の恐れが最小化される安全な距離から行動する
・サディストは、暴力的なスポーツ、暴力的なメディア、生の殴り合いを見るなど、他者の身になって自分の加虐欲求を満たすことが多い

論文はさらに、自己申告に基づいた一連の研究結果を基に開発した以下の尺度によって、これら2つの人格タイプを区別している。(以下の各項目について「まったくそう思わない」から「とてもそう思う」までの5段階で回答する)

<サディズム尺度>

1. 殴り合いを見ると興奮する
2. 暴力的な映画やゲームがとても好きだ
3. バカな人が転んで顔面を打つのを見ると笑える
4. 暴力的なスポーツを見るのが好きだ
5. 苦しみが当然の報いである人もいる
6. ソーシャルメディア上でおもしろ半分に意地悪なことを言ったことがある
7. 言葉だけで誰かを傷つける方法を知っている

<サイコパス尺度>

1. 始末に負えない人だと周りからよく言われる
2. 権力者やそのルールに抗う傾向がある
3. これまでにしてきたけんかの回数は、同年代や同性の人よりも多い
4. 質問などはせずにとにかく行動する傾向にある
5. 法に抵触したことがある
6. 危険な状況に飛び込むことがある
7. 私を怒らせる人は、常に後悔することになる
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翻訳・編集=遠藤宗生

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